2017年春闘は、大手メーカーを中心にした“第一陣”の一斉回答が出たが、ベースアップ(ベア)額は1000~1500円程度と軒並み前年を下回る企業が続出、政府が経営側に大幅賃上げを求める「官製春闘」は、4年目で最低水準となった。一方で、今年は労働時間短縮などの労働条件を巡る交渉も活発化しており、「賃上げ春闘」は大きな曲がり角に差し掛かっている模様だ。(報道局)
賃上げは官製春闘が始まった14年から活発になり、定期昇給も含めると5000~6000円、伸び率で2%を超えたが、今年は金額、伸び率とも下落。政府が目論んできた「賃上げ→消費活性化→企業業績向上」のシナリオに赤信号がともったとして、多くのメディアは「失速」「息切れ」と評価した。
しかし、連合がまとめた17日時点の第1回回答集計によると、賃上げ平均額(773労組、加重平均)は6270円、賃上げ率は2.06%で、前年同期より0.02ポイント低かったものの、息切れ感の強かった大手に比べ、中小企業などの“健闘”が光る結果となっている=写真。そのうち、賃上げ分がはっきりしている429労組のベアは1349円で、大手と変わらない水準だ。
一方、派遣、パートタイム、アルバイトなどの非正規労働者の賃金は、人手不足や最低賃金の上昇などを背景に1年以上にわたってジリジリ上昇を続けている。厚生労働省の毎月勤労統計調査でも、パートの所定内給与は2%台で増えており、正社員の伸び率を上回っている。今回の低ベアが、結果的に正規・非正規の格差是正につながる可能性も出ている。
今回、連合は「消費の活性化には月例賃金の上昇が必須」(神津里季生会長)とベアにこだわったが、経団連は「年収ベースでの賃上げを」(榊原定征会長)と最期まで譲らなかった。足元の業績は順調な企業が多いものの、米トランプ政権の誕生による経済・通商政策の大転換などが逆風になりかねないとして、多くの企業が慎重な姿勢に転じたのが大きな要因だ。しかし、優秀な人材のつなぎ止めを図る中堅企業などの賃上げは活発で、「失速」したかどうかはまだ判断しにくい情勢だ。
影落とす労働人口の減少
今年は、賃上げ以外では注目すべき交渉も多い。電機産業労使は「長時間労働の是正をはじめとする働き方改革の実現のために相互に協力し、多様な人材の活躍や生産性向上の実現に向けて最大限の努力を行う」との共同宣言を発表し、今後の主要テーマとした。
また、トヨタ自動車は子育て世代を対象に「家族手当」を月額1100円増やした。中堅スーパーのマルエツは勤務間インターバル制度の導入で合意。ヤマト運輸は宅配荷物の総量抑制を打ち出し、時間指定サービスの一部見直しや勤務間インターバルの導入で合意した。
長時間労働の是正など、労働条件の改善交渉が本格化したのは今回が初めて。政府が実現を目指す「働き方改革」で残業の法的規制が強まる一方、労働人口の減少によって慢性的な人手不足にあえいでいる業種を中心に、「働きやすさ」など賃上げ以外の改善に取り組まざるを得なくなったというのが実情だ。榊原会長は「多くの企業労使が、賃金に関する事項だけでなく、働き方改革の推進についても重点的に協議を行っていることが今年の大きな特徴」とコメントしている。
今回の大手ベアは低水準に終わったが、今後本格化する非製造業や中小企業にどう波及するか、見通しは混とんとしている。大手にならって賃上げを抑制するか、人材獲得を狙って大幅賃上げに踏み切るか、業績や業種によって対応が分かれる可能性があるためだ。同時に、長年にわたって当然視されてきた「春闘=賃上げ」の固定観念が大きな転換点を迎えている可能性も高く、賃上げ攻防だけに目の色を変えてきた労使にどう浸透するか、例年になく注目される。