非常勤職員にみる事実上の「昇給」と頭打ち
人事院規則8-12(職員の任免)には、「非常勤職員の任期」について次のように定めた規定が存在する。
第46条の2 期間業務職員を採用する場合は、当該採用の日から同日の属する会計年度の末日までの期間の範囲内で任期を定めるものとする。
2 任命権者は、特別の事情により期間業務職員をその任期満了後も引き続き期間業務職員の職務に従事させる必要が生じた場合には、前項に規定する期間の範囲内において、その任期を更新することができる。
3 任命権者は、期間業務職員の採用又は任期の更新に当たっては、業務の遂行に必要かつ十分な任期を定めるものとし、必要以上に短い任期を定めることにより、採用又は任期の更新を反復して行うことのないよう配慮しなければならない。
4 期間業務職員以外の非常勤職員について任期を定める場合においては、前項の規定を準用する。
5 略
したがって、期間業務職員の場合、任期の更新は一会計年度内においてのみ可能という話になり(注1)、会計年度をまたいで、事実上「任用更新」が行われる場合には、新たな採用という形をとることになる。
とはいうものの、期間業務職員については、同規則の46条2項ただし書2号が「能力の実証を面接及び期間業務職員としての従前の勤務実績に基づき」行い、公募によらないで採用することも可能としていることに留意する必要がある。
一種の〝抜け穴〟であるが、人事院事務総局人材局長名で出されたその運用通知「期間業務職員の適切な採用について」も、「公募によらない採用は、同一の者について連続2回を限度とするよう努めるものとすること」といった縛りをかけるにとどまっている。先に表2-1でみた「勤務実績等に応じ任用更新可(最大3年間)」という文科省の募集例も、この縛りに従ったものと理解できよう。
さらに、このような形で「任用更新」が行われた場合、新たな採用が繰り返されるごとに、経験年数を加味する形で採用が行われることから、常勤職員の標準的昇給例(給与法8条7項を参照)に準じて「任用更新」の度に4号俸ずつ「昇給」することになる。
こう考えると、採用期間を最大3年とする文科省の場合、非常勤職員の給与の最高額が1級33号俸に相当する額に設定されていることも説明がつく。つまり、大卒(一般職)の初任給である1級25号俸に相当する給与で採用された非常勤職員が2度「昇給」すると、この額になるという筋書きである。
ただ、文科省の1級33号俸相当額にせよ、これだけでは説明できない厚労省の1級36号俸相当額にせよ、それが採用時のみならず、「昇給」における頭打ちの金額となっていることにも注意しなければならない。初任給をベースとする限り、頭打ち=上限設定は避けられないということであろう(注2)。
なお、2004年の法人化後、こうした「昇給」の仕組みをそのまま踏襲した、最も代表的な国立大学に東京大学がある(以下、2016年3月に改正された「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」による(注3))。
東京大学では、年度ごとに給与の改訂が行われるため、非常勤職員の基本給額(時間給額)は、2016年11月の給与法改正(平成28年法律第80号)を反映したものとはなっていないが、表3にみるように、大学卒業後2年の経験年数がある者であっても、大卒(一般職)の初任給相当額(16年11月改正前の行政職俸給表㈠によると、17万6700円)に満たないものとなっている。
確かに、東京大学の場合、これに地域手当に相当する教育研究連携手当(19.5%)が加算される(57条を参照)ものの、その合計額でみても、文科省が時間雇用職員に支給するとしている時間給の額とあまり変わらない(時間給のみでは、1級1号俸(16年改正前は14万100円)を下回るケースもある)。更新回数の上限を4回(最長5年)としなければ(11条2項を参照)、制度そのものが保たなかった。こういって間違いはない。
表3 事務補佐員・技術補佐員時間給表(東京大学)
注) 「事務補佐員」の行う業務とは「事務に関する職務を補佐する業務」をいい、「技術補佐員」の行う業務とは「技術に関する職務を補佐する業務」をいう(「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」2条2項を参照)。なお、中卒、短大卒および修士課程修了については、記述を省略した(時間給額の上限は同じ)。月額および時間給額と教育研究連携手当の合算額の表示は、筆者による。東大の場合、フルタイムは週38時間45分。
備考(1)経験年数は、各欄記載の学歴取得後の経験年数を示す。
(2)表中「6.06」等とあるのは「6年6月」等を示す。
国家公務員である常勤職員の場合、勤務成績が良好(標準の意味)であれば、毎年4号俸ずつ昇給していく(給与法8条7項を参照)ため、よほどのことがない限り、俸給月額(月給)は勤続年数が長くなるにしたがって、増え続けることになる。
他方、給与法に定める行政職俸給表㈠と、「東京大学教職員給与規則」に定める一般職俸給表㈠との間には、その内容にまったく違いがみられないため、こうした昇給の実態についても、双方の間で差異はないものと考えられる(注4)。
例えば、2級のままそれ以上昇格しなかった職員であっても、その最高号俸である125号俸までの昇給が可能であり、地域手当を含まないその額(平成28年法律第80号による改正前のもの)は、月額30万3000円と、3級46号俸、4級22号俸および5級8号俸の額をも上回るものとなる。
「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、「基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の勤続年数である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、勤続年数に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない」というが、国家公務員や国立大学ほど、こうした年功的な基本給の支給が徹底して行われてきた職場はない。
常勤職員と非常勤職員との権衡を考えれば、任用期間や雇用期間は、これを少なくとも3~5年程度の範囲に限る必要がある。無期転換などおよそ考えられない世界が、そこにはあったのである。
注1:表1でみたように、裁判所による非常勤職員の募集は、年度をまたぐ形で行われている。つまり、特別職の職員を構成員とする裁判所は、人事院規則の規定に煩わされることなく、募集を行っていることがわかる。
注2:法人化前の国立大学における「頭打ち号俸」の実態については、拙著『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社、2014年)253~254頁を参照。
注3:ちなみに、「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」2条1項は、「この規則における短時間勤務有期雇用教職員とは、期間を定めた労働契約により1週間の所定の勤務時間が35時間を超えない範囲内で雇用する者をいう」と規定している。
注4:なお、東京大学以外の国立大学も、職員の俸給月額や基本給月額を、国家公務員のそれに合わせる形で規定しているのが現状となっている。国立大学の幹部職員の相当数が現在なお文科省系の全国異動職員によって占められていること(したがって、大学間で差を設けにくいこと)、退職手当については、その俸給月額や基本給月額をベースに、国家公務員退職手当法に規定する計算式どおりに算定した額が、国によって措置されていること(俸給額や基本給額を変更すれば、それが退職手当にも影響を与えること)といった事情が、その背景にはある。
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<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん
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小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。
最近の主な著作に、『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)、『労働法とその周辺――神は細部に宿り給ふ』(アドバンスニュース出版)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(同前)がある。