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2016年12月28日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

続・「同一労働同一賃金」について~公務員にとっては他人事の世界~(2)

Ⅱ 非常勤職員の給与決定

常勤職員の初任給を基準として決まる給与

iskojima.jpg 常勤を要しない職員。給与法にいう非常勤職員とは、このような職員を指す。しかし、給与法に定める「非常勤職員の給与」に関する規定は、以下にみるように、「常勤の職員の給与との権衡を考慮し、予算の範囲内で、給与を支給する」(22条2項)と、ごく抽象的に定めるにとどまっている。 

(非常勤職員の給与)
第22条 (1項、略)
2 前項に定める職員(注:委員、顧問若しくは参与の職にある者又は人事院の指定するこれらに準ずる職にある者)以外の常勤を要しない職員については、各庁の長は、常勤の職員の給与との権衡を考慮し、予算の範囲内で、給与を支給する。
3 前2項の常勤を要しない職員には、他の法律に別段の定がない限り、これらの項に定める給与を除く外、他のいかなる給与も支給しない。


 こうしたなか、2008年に、非常勤職員に対する給与の適正な支給を目的として、人事院事務総長名で発出された通知に「一般職の職員の給与に関する法律第22条第2項の非常勤職員に対する給与について」(平成20年8月26日給実甲第1064号)があり、次の4項目が支給に当たっての指針とされた。 

1 基本となる給与を、当該非常勤職員の職務と類似する職務に従事する常勤職員の属する職務の級(当該職務の級が2以上ある場合にあっては、それらのうち最下位の職務の級)の初号俸の俸給月額を基礎として、職務内容、在勤する地域及び職務経験等の要素を考慮して決定し、支給すること。
2 通勤手当に相当する給与を支給すること。
3 相当長期にわたって勤務する非常勤職員に対しては、期末手当に相当する給与を、勤務期間等を考慮の上支給するよう努めること。
4 各庁の長は、非常勤職員の給与に関し、前3項の規定の趣旨に沿った規程を整備すること。


 第1項の内容は、給与実務の担当者でなければ理解できない代物といえるが、要するに非常勤職員の給与は、新たに常勤職員として採用された者の初任給を基準として、その額が決まると考えてよい。ただ、第4項にいう規程は、どの省庁もいまだにこれを公表していないため、非常勤職員の給与が実際にどのようにして決定されるのかは、募集要項等から判断するしかない現状にある。

具体例からみた省庁における非常勤職員の給与

 例えば、2016年12月22日付けの文部科学省初等中等教育局による「非常勤職員(期間業務職員/時間雇用職員)採用のお知らせ」(ネット版)には、以下の記述がある(一部、順序や表記法を変更)。

表2-1 文部科学省における非常勤職員(期間業務職員/時間雇用職員)の募集例

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 そこにいう「期間業務職員」を人事院規則8-12(職員の任免)4条13号は、「相当の期間任用される職員を就けるべき官職以外の官職である非常勤官職であって、一会計年度内に限って臨時的に置かれるもの([国家公務員]法第81条の5第1項に規定する短時間勤務の官職(注:定年後の再任用短時間勤務職員を指す)その他人事院が定める官職(注:職員の1週間当たりの勤務時間が常勤職員の勤務時間の4分の3を超えない者をいう)を除く。)に就けるために任用される職員」と定義しているが、現状では勤務時間が常勤職員と変わらないフルタイムの非常勤職員が、期間業務職員全体(3万429人)の4割近く(38.8%)を占めるものとなっている(注1)

 また、「時間雇用職員」という言葉は、文部科学省とその関係機関でこそよく使用される(2004年の法人化前の国立大学も多用していた)ものの、他の省庁ではあまりその使用例をみない。同省の〝造語〟といってもよいかもしれない。なお、「週29時間」という勤務時間は、「期間業務職員」以外の非常勤職員としては、最も長い勤務時間ということになる(注2)

 さらに、同日、厚生労働省のホームページに掲載された同省大臣官房人事課の「非常勤職員(期間業務職員)採用情報」(ネット版)には、以下の記述がある(一部、表2-1に合わせる形で、順序や表記法を変更)。

表2-2 厚生労働省における非常勤職員(期間業務職員)の募集例

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 両者を比較対照すればわかるように、文部科学省と厚生労働省とでは、期間業務職員の給与日額に差異がある(なお、前者における期間業務職員の日給と時間雇用職員の時給は、支払い方法の相違にとどまり、その額に基本的な違いはない)。

 行政職俸給表㈠にこれを当てはめると、文科省の最低額は、20%の地域手当を含まない月額換算で14万833円となり、1級1号俸(14万1600円)に相当するのに対して、厚労省の場合には、月額換算で14万6069円となり、1級5号俸(14万6100円)が相当する給与ということになる。

 人事院規則9-8(初任給、昇格、昇給等の基準)別表第二「初任給基準表」によれば、1級5号俸は高卒(一般職)の初任給に当たるが、採用試験によらない場合の高卒初任給は1級1号俸とされており、両省は、これらの初任給をベースとして期間業務職員の給与の最低額を決定したものと思われる。

 他方、期間業務職員の給与の最高額は、文科省の場合、地域手当を含まない月額換算で19万1389円となり、1級33号俸(19万1700円)に相当するのに対して、厚労省の場合には、月額換算で19万6264円となり、1級36号俸(19万6200円)が相当する給与ということになる。任用期間の「更新」によって、給与が「改訂」される場合においても、これ以上は「昇給」しない。項を改めて、説明したい。
 

注1:内閣官房内閣人事局の「国家公務員の非常勤職員に関する実態調査」(2016年9月)による。具体的には、「調査対象とした非常勤職員のうち、1週間の勤務時間が常勤職員と同じ38時間45分の職員は1万1807人(21%)、常勤職員の3/4超38時間45分未満の職員は1万8604人(33%)、常勤職員の3/4以下の職員は2万4445人(44%)、週によって勤務時間が異なる等の事情があり、これらのいずれにも分類されなかった職員は1163人(2%)」であったという。
注2:常勤職員の1週間当たりの勤務時間38時間45分の4分の3を超えないためには、少なくとも29時間以下であることが必要になる。

 

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小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。
  最近の主な著作に、『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)、『労働法とその周辺――神は細部に宿り給ふ』(アドバンスニュース出版)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(同前)がある。

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