急速な高齢社会の進展とともに、「介護」が大きな社会問題となっている。とりわけ、離れて暮らす老親の世話をしなければならない現役サラリーマンにとって、「介護離職」が現実的な課題として重くのしかかる。20年以上前からこの問題に取り組んできたNPO法人「パオッコ」理事長でジャーナリストの太田差惠子さんに対処法を聞いた。(聞き手=本間俊典、大野博司)
―― 年間10万人規模で「介護離職」が繰り返され、社会問題になっています。
太田 日本人の平均寿命が伸び続ける一方、少子高齢化と核家族化によって、以前なら家庭内の課題だった介護が外部に“表出”してきた感があります。昔の「夫は仕事、妻は家庭」という男女分業、家族同居の時代には、主婦が当然のように親の介護に当たりました。それが、現代では夫も直面する問題になってきました。
実際、講演などで受ける質問も、20年前なら主婦の方々が「自分の親の介護費用をどうやって工面すればいいか」「実家の親の介護が必要になった。どうバランスを取ればいいか」といった内容がほとんどでした。最近は男性からの質問が多く、「自分の親の世話を妻に頼むわけにはいかない」といった悩みが増えています。そして、「実家が遠いので、仕事と介護の両立をどのように実現すればいいのか」という「遠距離介護」の悩みが急増しているのも大きな特徴です。
―― 仕事か介護かという二者択一の悩みに、遠距離問題が加わるわけですね。どうすればいいでしょうか。
太田 どの家庭にもそれぞれに事情がありますから、「これで決まり」という方法はありませんが、介護保険や各自治体が実施する公的制度をうまく使い、仕事への影響を最小限に抑えることで、介護と仕事の両立は基本的に可能だと思います。遠距離介護の場合は、特にそれが重要なカギになります。
「すべて自分で介護」と考えない
―― 具体的にはどうすれば?
太田 ある程度、共通するマネジメント方式があります。それは(1)まず老親の状況を把握する(2)支援、介護に当たるプロの代役を探す(3)親本人ができない場合、介護サービスや治療などの契約、決断を代行する(4)財産管理などを代行する――という順序で進めるのです。
講演などで多忙な日々の太田さん
どの市町村にも地域包括支援センターという公的な専門機関があり、介護保険の使い方や要介護認定の申請など、どんなことでも相談に乗ってくれます。当事者である親の希望をはじめ、兄弟姉妹らの親戚やご近所の意見などを聞いて、在宅介護にするか施設介護にするか、その場合はどんなサービスが受けられるかなどを調べて決めます。介護費用は親自身のお金を使うことを基本に考えましましょう。
こうしたマネジメントは、最初は慣れずに戸惑うことが多く、会社を休んで実家との間を往復する必要も出て来ますが、2~3カ月後には各種サービスに任せ、自分や家族の役割を小さくする体制を構築できれば負担は軽減されるはずです。離職まで思い詰める人の多くは「すべて自分の手で」と考えがちで、施設などに入居してもらうことにある種の“後ろめたさ”を感じているようです。しかし、今は在宅でも施設でも多様なサービスを受けられますし、自分自身の仕事や家族との生活も考えれば、どこかで思い切ることが必要ではないかと思います。(つづく)
太田 差惠子氏(おおた・さえこ)1960年、京都市出身。96年、遠距離介護を支える「パオッコ」を設立、2005年NPO法人化、現理事長。20年以上にわたる取材活動で得た豊富な事例を基に、「仕事と介護の両立」「遠距離介護」「介護とお金」の視点から新聞、テレビなどで情報発信。『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)など著書多数。立教大学院21世紀社会デザイン研究科修了。介護・暮らしジャーナリスト。