参院選は与党の圧勝に終わり、争点となった「アベノミクス」は信任されたという。しかし、本当に信任されたのか、大いに疑問だ。というのも、与野党とも消費増税を先送りして、国民の耳に心地よい「社会保障の充実」を叫ぶばかりで、その裏付けとなる財源問題にはほとんど触れずじまいだったからだ。与野党挙げて、国民に対する空手形の乱発合戦を展開したと言ってもよい。
増税再延期で個人消費は上向くのか?
消費税率を5%→8%→10%に段階的に上げることは、旧民主党政権時代の2012年、民主、自民、公明の「3党合意」ではっきり決まった。ところが自民復権とともに14年4月に税率を8%に上げたところ、消費不況が長引いたため、安倍晋三首相は同年11月に1年半の増税延期を打ち出して衆院を解散し、大勝した。その時、「リーマン・ショック級の大変動でも起きない限り、再延期はしない」と明言したはずだ。
しかし、それでも消費が伸びなかったため、今度は「世界経済が心配」という「新しい判断」を示して、19年10月までの再延期をあっさり決め、参院選に臨んだ。その結果はともかく、政党間合意の軽さ、政治情勢次第で国民への約束など簡単に破る身勝手さに、政治の劣化を感じた国民は多いのではないだろうか。
財源なき「社会保障充実」のオンパレード
今回の“争点隠し”選挙に対して、将来のツケを背負わされる若者有権者がどう反応したか、興味のあるところだ。私自身は高齢世代になるが、財源を明らかにしないまま、「社会保障の充実」を並べたてる与野党の選挙公約には白々しさしか感じなかった。
今回の再延期で年間約4兆円の増収分が消え、その分、最も急ぐべき子育てや介護の充実といった社会保障費のカットは必至だ。歴代政権が目指してきた「税と社会保障の一体改革」はとん挫し、1062兆円に達する国・地方債務(16年度末)の削減も大きくつまずくことになった。税制を政局の具にしたツケは、後々、若者世代の肩に重くのしかかって来るであろう。
しかも、増税を再延期したからと言って、個人消費が低迷から抜け出す保障もない。なぜなら、日本の産業構造が古いままで新陳代謝が進まず、高い収益を上げられる企業が十分育っていないからだ。そのため、正規と非正規の格差縮小の切り札として与党が公約した「同一労働同一賃金」について、自信を持てない日本経団連は慎重な姿勢を崩していない。これでは、「格差縮小→消費活性化」の実現は絵に描いた餅に終わる。
それを打ち破るのがアベノミクスでいう「第三の矢=構造改革」だが、既得権の厚い壁に阻まれて容易に進まないのは周知の事実。とりわけ、投票率の高い高齢世代に有利な政策が優先される「シルバー民主主義」の壁は非常に高く、今回の参院選でその壁のどこかに穴があいた形跡もない。「財源がなければ、最後は赤字国債で」という安易な考えが国会全体を覆っているのではないか。このままでは、日本経済の長期的な地盤沈下は着実に進むであろう。
(本間俊典=経済ジャーナリスト)