NPO法人「人材派遣・請負会社のためのサポートセンター」(高見修理事長)が主催する、2016年の「派遣・請負問題勉強会」(アドバンスニュース協賛)は、「企業経営における労使関係」を年間テーマに開催している。既に、4月14日から6月1日までに3回実施し、毎回、参加の募集案内から1週間足らずで定員いっぱいの盛況ぶり。経営者や人事関係者をはじめ、研究者、マスコミなどの関心の高さがうかがえ、それぞれの視点から知見を深めている。(報道局)
改正派遣法への取り組みの新たな視点に「経営と労使関係」
今回の年間テーマの背景として、昨年9月に施行された改正派遣法は、従来の事業区分を撤廃して派遣制度の柔軟な活用を可能とする一方、派遣労働者の雇用安定措置やキャリア形成支援を派遣元事業者に義務付け、「派遣労働者の保護を前面に打ち出した抜本的改正」となっている。
こうした事実を正面からとらえ、同NPO法人は「派遣事業者にとって、自らが雇用する派遣労働者とのより良い労使関係を築く努力が従前以上に求められている。改正派遣法に対する取り組み方の新たな視点として、『経営と労使関係』を掘り下げたい」と、年間テーマに据えた。
初回から3回目までは、労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎主席統括研究員のプレゼンテーションを導入に、企業側や労働者側で先駆的な取り組みを実践している「現場感覚」の講演へとつないだ。
【4月14日】 濱口氏「日本の労使関係の現状と課題」と題して講演
濱口氏は昨年9月に施行された改正労働者派遣法の成立過程を踏まえ、派遣業界が政治やマスメディアなどの偏見を容易に払しょくできない原因の一つに「味方になる労組がほとんどいない」点を挙げた。それを踏まえて「日本の労使関係の現状と課題」と題して講演した。
濱口氏は欧米や日本の近代労働関係史を概観したうえで、先進諸国では「仲良くケンカする」労使関係が一般化しているものの、日本では非正規労働者についてはそれがあてはまらず、労組が前面に立つ集団的労働争議の激減と労働者個人が訴える個別労働紛争の激増が顕著になっている点を指摘。中でも、派遣・請負業界は就労形態から、個別紛争の「火薬庫」となっており、紛争を円滑に解決する集団的労使関係の新たな枠組みを設定する必要がある、と強調した。
この後、テクノプロ・ホールディングスの小山博史人事部長と高木工業の高木茂社長が、派遣・請負企業における労使関係について、自社の取り組みを報告。両社とも、非正規労働者の労組であるJSGU(人材サービスゼネラルユニオン)との交渉を通じて、経営を軌道に乗せた体験談を披露した。
【5月10日】 呉、松井両氏が労使関係、人材育成を語る
労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎主席統括研究員が「企業経営にとっての労使関係」について概説した後、同機構の呉学殊主任研究員が「経営資源としての労使関係」、良品計画の松井忠三元会長(現名誉顧問)が「無印良品の、人の育て方」と題して講演した。
濱口氏は、労働基準法などでは「労使対等」が規定されているものの、現実には対等ではなく、労働者側が声を出しにくいのが一般的であり、両者をつなぐ集団としての労働組合の重要性を強調した。
これを受けて呉氏は、一時は業績不振に陥った資生堂やケンウッドグループの回復事例を挙げ、そこで労組が果たした役割を詳細に解説。大企業に限らず、中小企業でも経営者の姿勢次第では労使コミュニケーションが可能な好事例を紹介して、「良好な労使関係は重要な経営資源になる」と述べた。
松井氏は、右肩上がりの業績上昇が続いた良品計画が、2000年になって大きくつまづいた経緯を説明し、どのようにして経営改革を果たしたのかを説明。店舗業務マニュアルの「業務基準書」、適材適所の配置を行う「人材委員会」の設置といった施策を講じて、人材育成と社風改革に取り組んだことが奏功したと述べた。
【6月1日】 藤村、二宮両氏が労組の役割を語る
シリーズ全体を通してナビゲーターを務める労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎主席統括研究員が「企業経営にとっての労働組合」と題して導入プレゼンテーションした後、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科の藤村博之教授が「企業の競争力と労働組合」、連合中央アドバイザー(元UIゼンセン同盟副書記長)の二宮誠氏が「労働組合の組織化と労使関係」と題して講演した。
濱口氏は、組織率が年々下がっている日本の労組事情の中で、非正規労働者を含むUAゼンセンが組合員を増やしている事実に触れ、労組の意義や今後のあり方などについて示唆した。
藤村氏は、多くの労組からヒアリングした経験を踏まえ、従来の労組は(1)労働条件の維持向上、(2)雇用保障、(3)組合員へのサービス提供――の3本柱が主要な役割だったが、これからは(1)コーポレート・ガバナンス(企業統治)の一翼を担う、(2)組合員の能力育成に基づいた攻めの雇用保障、(3)USR(労組の社会的責任)の実践――が新たな3本柱になると解説。また、企業人事の課題についても切り込んだ。
二宮氏は、戦後を中心に労働運動の組織変遷をたどりながら、自身が果たしてきた労組形成の豊富なオルグ活動から、「経営側の理解のもとで生まれた労組は、労使関係で最も重要な“信頼関係”がまずありきで始まる」、「生産性向上について、車の車輪の一方としての役割を果たすことができる」などのポイントを強調した。
【10月3日予定】 3回の勉強会を踏まえて300人規模のフォーラム開催へ
最終となる10月3日開催予定のフォーラムは、3回の開催内容の中から浮き彫りとなった課題や着眼点を踏まえ、時宜を得た旬なテーマで企画する方針。全体構成や運営方法の細部を詰めてから夏以降に参加募集を開始する計画だ。
登壇者としては、濱口氏をはじめ、中央大大学院戦略経営研究科の佐藤博樹教授、 東大社会科学研究所の水町勇一郎教授、日本の労働組合のナショナルセンターである連合の逢見直人事務局長が内定している。
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