4 所詮は他人事――公務員に適用した場合、実行は可能か
「この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない」。労働契約法22条1項はこのように規定し、パートタイム労働法29条にも、同様の定めが置かれている(注1)。例えば、以下にみる質問答弁も、国家公務員に対するこうした労働契約法の適用除外を、その背景としている。
厚生労働省の非正規職員の労働条件不利益変更に関する質問主意書及び答弁書(クリックすると開きます)
質問主意書を提出した初鹿衆議院議員(維新の党所属、当時)や同議員が依拠した新聞記事を書いた記者が、国家公務員に対する労働契約法の適用除外についてどの程度理解していたのかは、定かではない。国家公務員の場合には、非常勤職員が一般職の職員として任用されているという認識(注2)さえなかった可能性もある。他方、答弁書もこうした非常勤職員の地位や労働契約法の適用除外については一切触れることなく、なお書きという形で、非常勤職員である「総合労働相談員については、単年度ごとに任用され、当該年度ごとに勤務条件が定められる」といった事実にのみ言及するものとなっている。
その根拠は、次のように定める人事院規則8-12(職員の任免)にあるが、非常勤職員の場合、任期の更新は、一会計年度内においてのみ可能とされ(46条の2第2項)、任期の満了によって、いったん退職したものとして取り扱われる(52条3号)。そこで、次年度において、同じ職員を仮に任用したとしても、それは任期の更新ではなく、新たな採用として位置づけられることになる(なお、「期間業務職員」とは、「相当の期間任用される職員を就けるべき官職以外の官職である非常勤官職であって、一会計年度内に限って臨時的に置かれるもの<略>に就けるために任用される職員」<4条13号>をいう)。
第46条の2 期間業務職員を採用する場合は、当該採用の日から同日の属する会計年度の末日までの期間の範囲内で任期を定めるものとする。
2 任命権者は、特別の事情により期間業務職員をその任期満了後も引き続き期間業務職員の職務に従事させる必要が生じた場合には、前項に規定する期間の範囲内において、その任期を更新することができる。
3 任命権者は、期間業務職員の採用又は任期の更新に当たっては、業務の遂行に必要かつ十分な任期を定めるものとし、必要以上に短い任期を定めることにより、採用又は任期の更新を反復して行うことのないよう配慮しなければならない。
4 期間業務職員以外の非常勤職員について任期を定める場合においては、前項の規定を準用する。
5 略
(免職及び辞職以外の退職)
第52条 次の各号のいずれかに該当する場合においてその任期が更新されないときは、職員は、当然退職するものとする。[国家公務員]法第60条第3項の規定により臨時的任用が取り消されたときも、同様とする。
一 臨時的任用の期間が満了した場合
二 法令により任期が定められている場合において、その任期が満了したとき。
三 前号に掲げる場合のほか、任期を定めて採用された場合において、その任期が満了したとき。
こうした仕組みのもとでは、勤務条件の不利益変更問題など、起きようがない。また、非常勤職員については、「常勤の職員の給与との権衡を考慮し」としつつも、「予算の範囲内で、給与を支給する」と、給与法(一般職の職員の給与に関する法律)は、22条2項で規定しており、給与等の勤務条件に関しても、常勤職員との間に大きな違いがあることは広く知られている(注3)。
ただ、公務員に対しても、仮に労働契約法やパートタイム労働法が適用されていれば、当然、話は違っていた。自らの職場が影響を受けないからこそ、所詮は他人事(ひとごと)と、ノンキに構えることもできた。
自分にできないことは、他人にも強制しない。このことは、最低限の道徳ともいうべきルールであって、これらの法律の改正に際して、その起案に当たる国家公務員=官僚にも均しく妥当する。
公務員に対して労働契約法やパートタイム労働法を適用することまでは求めない(雇用と任用の違いは、やはり無視すべきではない注4)ものの、改正規定を含め、これらの法律を公務員に適用すると仮定した場合、実行可能かどうかについては、その説明を官僚に義務づける。法改正を他人事で終わらせないためにも、この程度の工夫はぜひとも必要といえよう。
注1:国家公務員の場合、一般職の職員については、労働組合法、労働関係調整法および労働基準法(いわゆる労働三法)のほか、最低賃金法等の法律についても、その適用が除外されている。国家公務員法附則16条を参照。
注2:地方公務員の場合、非常勤職員には、一般職の職員(臨時職員)として任用されている者以外に、地方公務員法3条3項3号に定める特別職の職員(非常勤嘱託)として任用されている者が相当数いる。特別職の定義が国家公務員と異なることが、その背景にはある。なお、これら特別職の非常勤職員の場合、労働三法の適用はあると解されているものの、労働契約法やパートタイム労働法の適用はない(適用除外規定は、一般職と特別職の間で区別を行っていない)。
注3:拙著『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社、2014年)253頁以下を参照。
注4:例えば、派遣法は、公務員にも適用される、労働関係法令としては例外的な法律であるが、労働契約の申込みみなし規定類似の規定を公務員について定めること(労働者派遣法40条の7)には、大きな無理がある。拙著『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社、2015年)169頁以下を参照。
小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。
最近の主な著作に、『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)、『労働法とその周辺――神は細部に宿り給ふ』(アドバンスニュース出版)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(同前)がある。