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2016年4月11日

◆経済トピックス◆ 電力小売り自由化、そろりスタート

「安定供給」体制からの大転換

 電気の供給体制を根本から変える電力の小売り自由化が4月、スタートした。基本的には、旧電力会社のシェアに新電力会社が食い込もうと、電気料金の値下げを武器に参入を図る構図だが、旧電力も対抗値下げに踏み切るなど防衛に躍起だ。マスコミも値下げ合戦に焦点を当てる報道が目立つが、自由化のもたらす意味は果たしてそれだけだろうか。(報道局)

 新規参入組は都市ガス、石油元売り、通信、CATVなど多種多様。帝国データバンクによると、3月末時点のエントリー企業は800社を超えるが、実際に供給事業のできる企業は、実績のある企業を中心にした172社程度。サービス内容は、ガス料金、ガソリン代、携帯電話料金などとのセット販売で、契約期間は大体数%~10%程度の割り引きを打ち出している企業が多い。旧電力側も新規組や地元企業と提携し、ポイントを付けて地元産品と交換できるといったサービスで対抗する構えだ。

 いずれにしても、現行料金よりは安くなりそうだが、もともと電気料金は世帯人数や時間帯によって違うところにもってきて、さまざまな新規サービスと組み合わせて「オトクですよ」と言われても、消費者はどれがどの程度「オトク」なのか判断に苦労するだろう。博報堂が昨年11月に実施した消費者調査では、自由化後の契約先変更を検討している人は7割以上に上ったが、経済産業省などによると、さっそく変更したのは首都圏を中心にした0・5%程度に過ぎないようだ。しばらくは様子見で情報を集め、“評判”になったサービスを選択するということなのだろう。それはそれで賢明だと思う。

高かった日本の電気料金

 そもそも、なぜ電気料金は自由化されるのだろうか。さまざまな理由があるが、大きく言って2点ある。一つは、戦後日本を支えてきた電力供給システムが時代に合わなくなり、国際的に割高になってしまったこと。もう一つは、原子力発電所に代表されるように、発電方式を従来の大規模集中施設に限定するリスクが高まり、小規模分散型の発電方式が必要になったことだ。

 まず、前者は電気料金の国際比較にはっきり表れている。資源エネルギー庁などの資料を見ると、日本の家庭用電気料金は米国の2倍以上で、英国より2割、フランスより4割ほど高い。税金の高いドイツよりは2割ほど低いが、先進国の中ではかなり高い。日本の消費者はこれまで、割高な電気代を支払ってきたのだ。

 その理由もいろいろあるが、基本的には電力会社による地域独占と総括原価方式と呼ばれる供給システムにあることは確かだ。日本の場合、電力10社によって供給地域が分けられ、各社が火力、水力、原子力などの大規模発電所を作って発電し、送電網を整備して都市部に電気を供給するシステムを採用。しかも、供給に掛かるコストは総括原価方式という、基本的には消費者が払う電気料金によって賄われてきた。言い換えると、電力会社にとって重要なことは停電などのない「安定供給」であり、「コスト削減」ではなかったのだ。

 後者については、東日本大震災の福島第1原発事故を思い起こせば十分であろう。それまで政府も電力会社も「原発は安全」と言い続け、大規模施設の発電方式を変えようとしなかったが、一度事故が起これば「安定供給」は不可能になり、操業不能に陥るリスクの高さを露呈した。都内が計画停電で大騒ぎになった時、六本木ヒルズの自家発電装置が稼働して停電しなかったことが話題になったが、小規模分散型の発電システムの方が時代のニーズに合っていることを見せつけた好例だ。

 旧電力側にとって今回の自由化は、戦後続いた地域独占と総括原価方式が終わり、真の意味で競争原理が働く市場になったという意味がある。これまでガス会社との“競合”などはあったものの、電気料金自体で競争することなどなかっただけに、旧電力は根本的な意識改革を迫られるであろう。それは、電電公社が民営化され、NTTとなって市場競争にさらされているのと似ている。その結果をみれば、自由化はやはり十分意味のある転換だと思われる。

送配電部門の切り離しが自由化の成否を決める

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公正競争のカギとなる送配電網の自由化

 ただ、電気料金が携帯料金並みにダウンするかどうかは未知数の部分もある。というのは、新規参入組も電気を消費者に届ける送配電網は旧電力会社のものを使うため、どこまで公正な競争条件が確保されるか、まだ不透明な部分があるためだ。電力会社から送配電部門を切り離して別会社化するのは2020年からであり、その前の17年度からは都市ガスの全面自由化も実施される予定で、事業者間の合従連衡が落ち着くのはしばらく先になるとみられる。

 自由化の理想は、旧電力会社が築いた世界に冠たる「安定供給体制」を維持しながら、料金の不断の引き下げを実現することであろう。旧国鉄や旧電電公社など、過去の民営化の流れを振り返ると同時に、それなりに充実した電力供給体制が整備済みであることを考えれば、それも不可能ではないと思われる。要は、公正な競争環境がどこまで実現できるかどうかに掛かっている。

(本間俊典=経済ジャーナリスト) 

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