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2016年4月 4日

連合と人材サービス2団体との「共同宣言」

6年ぶりの採択、宣言の意義と中身

 連合と人材サービス2団体が3月15日、派遣または有期労働者が安心して働くことができる環境整備に向けて双方が取り組む項目を明記した「共同宣言」を採択した。2010年春以来、6年ぶりとなる「共同宣言」は、労働者派遣法の「平成24年改正」と、抜本的な見直しとなった「平成27年改正」の内容を踏まえた項目を中心としつつ、法律に記述されていない「互いの実践的な行動目標」も盛り込まれている。一般的に“水と油の立場”にあると映る双方が、協議のテーブルを設けてこぎ着けた宣言だけに、互いの努力と意義は大きい。(報道局)

「双方が取り組む」という共有認識に重み

is160344_1.jpg 人材サービス2団体は、事務系派遣事業者を中心とする日本人材派遣協会=写真上=と、製造請負・派遣事業者が主体となる日本生産技能労務協会=写真下=の2団体。当初は、2団体を一本化した宣言採択の手法も浮上したが、共通項だけでなく、それぞれの業態の特性と持ち味もあるため、6年前と同様に別々で連合と「宣言項目や文言」を整えた。よって、概ね構成と内容は一緒だが、細部で微妙に言い回しなどが異なる格好となっている。

is160344_2.jpg 宣言採択の最大の目的は、「派遣・有期労働者の雇用の安定と均等・均衡待遇の実現や労働力の需給調整という重要な社会的機能を担う派遣業界の適正な運営と健全な労使関係の確立を促進し、派遣・有期労働者が安心して働くことが出来る環境を整備していくこと」にある。両団体の共同宣言の冒頭、この確認が明記されている。第一義に、この共有認識の文言には重みがある。

 もちろん、上記の至上命題にも通じる別な側面として、連合には「派遣元企業本体とその企業の派遣・有期労働者たちの労働組合の組織化促進」への期待感もある。一方、2団体は一足飛びに出来る容易なテーマではないものの、その意図を含みつつ、労働組合のナショナルセンターとの「協議・協調、つながり」を大切にしたい思いを持っている。そうした互いの“絶妙な意図とバランス”が交錯する中での宣言文だけに、連合と2団体はそれぞれに「一方的な要求のぶつけ合い」に陥らないよう細心の配慮で文言をぎりぎりまで詰めた。

宣言文の構成は共通、数項目の細部に微妙な違い

 さて、肝心の共同宣言は、先に紹介した共通認識などを記した「扉」から始まり、派遣協と技能協ともに、「Ⅰ 事業の適正な運営の促進に向けた取り組み」、「Ⅱ 労働者の処遇向上に向けた取り組み」、「Ⅲ 今後の両団体の協議体制に関わる事項」で構成されている。 そして、ⅠとⅡのそれぞれにおいて「協会の取り組み」、「連合の取り組み」、「共同の取り組み」と整理して具体的な項目を並べ、明瞭に仕分けた。

 派遣法など関係法令に準ずる項目以外で、特筆される派遣協と技能協の文言を挙げると、「Ⅰ」における「共同の取り組み」で派遣協の共同宣言は「不適正な派遣元事業者の存続・参入を許さない仕組みを構築するとともに、派遣労働者の保護やキャリア形成に資する制度のあり方について引き続き検討する」などと記載。

 技能協は「製造請負優良適正事業者認定制度や優良派遣事業者認定制度の普及を促進させ、不適正な派遣元事業者などの存続・参入を許さず、優良な事業者を育成する仕組みを構築するとともに、派遣・有期労働者の保護やキャリア形成に資する制度のあり方について引き続き検討する」などと記述されている。いずれも、この認識を「共同の取り組み」として位置付けたことが大きい。

 「Ⅱ」では「協会の取り組み」の部分が注目される。2団体とも派遣法のみならず関係法令の順守を12項目におよび明記。概ね共通しているが、このうち、労使のあり方に関する部分では、派遣協が「健全な労使関係についての理解促進に努めること」とし、技能協は「労働組合活動に関する理解促進に努めること」と記載。表現の微妙な違いではあるものの、こうした部分に両団体の「深い思案」のいったんが垣間見える。

 同じく、「Ⅱ」の「連合の取り組み」では、連合が構成組織を通じて、派遣先(発注者)・派遣元の労働組合に対して求める項目のひとつとして、派遣協とは「派遣先労働者と派遣労働者との均衡待遇を実現できる水準で派遣料金が設定されるよう、派遣先労働者の賃金水準等の情報提供をすること。また、派遣元事業主との話し合いの場を適切に持つこと」と交わした。

 同様の部分に該当する項目で技能協とは「派遣先事業主から派遣元事業主へ、派遣先労働者の賃金水準等の情報提供を適切に行うよう求めるとともに、均衡待遇を実現できる水準で派遣料金を設定するよう派遣先事業主に求めること」と、2団体それぞれが連合との調整で特色を出した。

 現行の労働者派遣法のあり方については、連合と事業者では別な視点から「承服できない部分」が少なくなく、当然ながら最後まで相容れないところもあるだろう。しかし、反目し合ってばかりで「意見交換のテーブルも持たず」では、最も大事な働く現場に何の前進も生まれない。双方が出来る「共通項の歩み寄り」を敢えて探った宣言採択の意義はそこだ。

 宣言文は「握手」である一方で、文言となっているがゆえに「相互のけん制」としても有効だ。ここまで努力してたどり着いた採択だけに、次は互いに具体的な実行に移していく責務がある。


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