2016年春闘は大手企業の賃上げ回答がほぼ一巡して、舞台は中小企業や非正規社員の賃上げ動向に移りつつある。多くの大手が3年連続の賃上げに踏み切ったものの、ベースアップ(ベア)の上げ幅は過去2年よりも縮小したことから、「月例賃金」にこだわった連合などの顔色は冴えない。しかし、大企業正社員との賃金格差に苦しんできた中小企業や非正規社員にとっては「格差是正」の好機でもあり、その意味で今年の春闘は過去2年とは少し様相が異なっている。(報道局)
連合「底上げに注力した成果」を強調
連合がまとめた24日時点の回答速報によると、1183労組の平均賃上げ額は6335円で、前年同期比2.10%のアップとなり、額では前年の7136円より800円ほど下がった。率でみても、昨年の2.38%、一昨年の2.19%を下回っている。円高・株安など景気の先行きに不透明感が増したため、労組自身が過去2回を下回る要求額へ事実上の自己規制を掛け、経団連が打ち出した「年収ベースのアップ」に甘んじた“労使協調”の当然の結果と言える。
今春闘では「格差是正」も大目標になった
=連合会館・3月16日
しかし、連合では社員300人未満の中小企業(614労組)が5195円(同2.07%増)となり、アップ率が18日時点(376労組)の集計と変わらない点に着目。例年なら回答社数が増えるとアップ率も下がるが、今年は「横ばいの健闘」をみせていることから、「底上げに注力した成果が出ている」と評価している。
また、非正規労働者については、UAゼンセン傘下の流通系企業の回答をみると、8万人以上が加入しているイオン系労組では時給921.8円と23.0円増、1万人以上のライフ系労組も同980.5円と27.3円増の回答を引き出した。両労組とも満額回答を得ており、今年は要求額に対して満額かそれ以上の回答をした企業が目立つなど、連合が目指した「すべての労働者の処遇改善」目標という点では一定の成果が出つつあるようだ。
過去2回の春闘は正社員の賃上げが焦点となり、「デフレ脱却」を目的にする政府が、経済界に積極的な賃上げを要請するという「官製春闘」の狙いが奏功した。しかし、正社員と非正規社員の賃金構造が異なっていることから、賃上げ効果が非正規社員まで十分に回らず、「格差」はむしろ拡大する傾向にあったとみられる。
人手不足で非正規の賃金も上昇続く
しかし、景気拡大に伴う人手不足が慢性化し、流通、外食、宿泊などのサービス系企業では非正規社員が集まらない事態が続くという需給バランスの変化によって、パート、アルバイト、派遣など非正規の賃金はジリジリ上昇基調を続けており、今回の春闘がこれまでの上昇傾向に拍車を掛けたとみることもできる。
正規、非正規とも、今回は賃上げの恩恵に多少なりとも浴することができそうだが、ではそれが国民の消費活動をどの程度活発化させるかとなると、さまざまな点で未知数だ。とりわけ今年は、来年4月に予定されている消費税率アップの第2弾が、個人消費にどう影響を及ぼすか予断を許さず、多くのサラリーマン家庭が“生活防衛”に走れば、賃上げの成果は広がらない。政府・与党は、企業業績や消費動向を気にしながら難しい政策判断を迫られそうだ。