雇用形態にかかわらず同じ仕事に同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の導入に向け、7人の有識者で構成する検討会が3月23日、初会合を開く。今年に入って、安倍晋三首相が「働き方改革」の一環として“本腰”を入れ出している注目の動きだが、昨年までの安倍首相の国会答弁や関連する法案審議の取り扱いなどを踏まえると、唐突感と拙速さが否めない。18日に公表された有識者7人の顔ぶれと今後の流れ、着眼点について概要を整理する。(報道局)
委員は大学教授ら5人、民間シンクタンクから2人
検討会の正式名称は、「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」。2月23日に首相官邸で開催した一億総活躍国民会議で、安倍首相が正当でない賃金格差の事例となる早期のガイドライン(指針)策定について、専門家による検討会の立ち上げを閣僚に指示していた。
検討会の委員は50音順に川口大司・一橋大学経済学研究科教授、▽神吉知郁子・立教大学法学部国際ビジネス法学科准教授、▽中村天江・リクルートワークス研究所主任研究員、▽松浦民恵・ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員、▽水町勇一郎・東京大学社会科学研究所教授、▽皆川宏之・千葉大学法政経学部教授、▽柳川範之・東京大学大学院経済学研究科教授――の7人。
法学と経済学などの教授と准教授が5人、民間のシンクタンクから2人の顔ぶれとなっている。検討会の運営所管は、第一義には厚生労働省職業安定局派遣・有期労働対策部企画課となるが、このテーマを議題にした一億総活躍国民会議を所管する内閣官房が同検討会を含む全体の動きをハンドリングする模様だ。
検討会は23日の初会合から「非公開」で実施される。検討項目は、(1) EU諸国における制度の現状と運用状況(裁判例など)、(2)日本の制度の現状と課題、日本企業の賃金の実態と課題、(3)日本とEUにおける雇用形態間の賃金格差に影響を与える諸条件の違い、(4)ガイドラインの策定、必要な法的見直し等に向けた考え方の整理――の4点。
5月に公表する中長期の工程表「ニッポン一億総活躍プラン」に方向性を盛り込む方針であるため、春の大型連休を考えると、検討会は4月中には論点をまとめる必要がある。
ガイドラインは年内メド、関連法改正などはその先
関係者への取材を総合すると、ガイドライン策定は「年内メド」という日程感だ。新たな法整備や現行の関係法令の改正の必要性も併せて議論する見通しだが、法改正に関わる領域は、公労使で構成する労働政策審議会(厚労相の諮問機関)での議論が不可欠。つまり、ガイドライン策定の詳細な検証でさえも相応の時間を要するため、同検討会の4月中の論点整理は欧州などの運用状況や日本の現状を整理した内容にとどまる見込みで、5月の「ニッポン一億総活躍プラン」でも具体的な内容の列挙まで踏み込めるかは微妙と言える。先に記した通り、「方向性」は明記する。
このような日程感を見るにつけ、安倍首相の“ぶち上げ方”には唐突感が否めず、口火を切ってから現在までの流れにも拙速さが目立つ。そう抱かせる理由のひとつとして、2015年の通常国会での安倍首相の労働者派遣法改正案などの答弁がある。安倍首相は「(同一労働同一賃金の導入に)共鳴するも時期尚早。職務に対する賃金体系が普及しておらず、能力や責任、配置転換の範囲などの要素によって賃金が決定される職能給が一般的である日本の労働市場において、すぐさま同一労働同一賃金や均等待遇の仕組みを導入するには乗り越えるべき課題がある」との認識を示し、「まずは個々の事情に応じた均衡待遇を推進していくことが適切」と繰り返し述べているからだ。
それからわずか数カ月後には、「わが国の雇用慣行には十分に留意しつつ、同時に躊躇(ちゅうちょ)なく法改正の準備を進める」と、一気に数段階もトーンを上げた。その背景については、「7月の参院選を意識したアドバルーン」とか、「日本の雇用慣行に配慮した同一労働同一賃金の定義を詰めれば、大半が例外か適用除外となるのでは」といった批判や憶測的な声が、野党はもちろん、与党内からも聞かれる。
ただ、「(議論を)やらないよりはやった方が良い」との観点に立つとすれば、これからの動きで注目すべきポイントが大きく2点。まず、同一労働同一賃金の定義を明瞭に整理・線引きできるかにある。いろいろな立場の人が思い思いの受け止め方をして「同床異夢」になってしまっては、労働市場の混乱のタネとなるだけ。そういう意味では、同検討会や一億総活躍国民会議の忌憚のない活発な議論が期待される。
そして、もう1点。政府の同一労働同一賃金の導入に向けた本気度が大型選挙後の7月以降も変わらないかどうかだ。政府には「聞こえのいい」、あるいは「絵に描いた餅」とならないような、将来の労働市場全体をしっかり見据えた腹のすわった政策を打ち出す「真の働き方改革」の動きが求められている。
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