eラーニングやインターンシップ制の導入、文化交流イベント開催も
ホーチミン工科大の校舎4階の一室。日本語講師の山田朱美先生=写真右=の気迫のこもった声が、大学の国際プログラム機関(OISP)の教室に響き渡る。20人の学生が呼応するように、日本語の文節の読み書きを繰り返す。日本語を専攻していた学生たちではないにもかかわらず、「開講からまだ3カ月だから」といった稚拙(ちせつ)さはない。
むしろ、専攻分野のほかの学習時間でここまで日本語の読み書きができるのか、と驚くほどのクオリティである。山田先生が文節のポイントを伝えると、さっそく学生同士で実践練習。若者特有の繊細さや気遣いは感じられるが、学ぶ姿勢に対する「照れのようなもの」は微塵(みじん)もなく=写真左、繰り返される実践練習の合間にも、学生たちは手を挙げて山田先生を呼び寄せ、積極的に質問する。「こちらが真剣に予習して、教えるレベルを上げないと。そうした、ある種の緊張感と学生とのやり取りが嬉しくて」と、濃密な講座の終了後は疲労感より充実した笑みがこぼれる。
日越就業能力開発プログラム長のトゥン准教授が話していたように、熱意ある教える講師陣の確保と維持は重要なカギとなっている。教師・講師らをはじめとするいわゆる公務員が決して高給ではない国柄だけに、プログラムのリーダークラスは工夫や腐心の日々と言えるだろう。近く、学生が時間や場所を選ばず学習が可能なeラーニングの導入ほか、将来的にはインターンシップ制や就職セミナー、文化交流イベントなども実施する方針だという。
「懸け橋となる複数の実績」で両国が抱える課題の克服を
ベトナムは親日的であり、ホーチミン市に限らず、これからもベトナムのハイレベルな大学などとの日本の産学官連携は進む方向にある。同プログラム開講の準備段階で行ったアンケート調査でも、学生の77%が「日本国内で就業したい」と回答。理由のベスト5(複数回答)は①職場環境が良い、②日本文化や環境が好き、③給与・待遇が良い、④日本が好き、⑤日本に行きたい――となっている。
ホーチミン工科大は、1990年代から日本の民間会社と提携した日本語教育などのクラスを開講しており、今回開講したプログラムなどとそれぞれに一層の高度化とさらなる高みを目指す切磋琢磨が必要だ。別の大学や他の人材サービス会社の動きなどにも同じことが言える。そうした飽くなき歩みの中で、大学での専攻分野と業務内容が異なる場合に就労ビザが下りにくいという日本側の課題や、日本法人によるサービス業の営業ライセンス取得のベトナム側の障壁など、両国が抱えている懸案を「懸け橋となる複数の実績」によって克服していく段階に入っている。 (おわり)
≪ホーチミン市校工科大学≫ ベトナムの国家大学のひとつで、南部の技術系大学では最高位に位置し、研究や教育の中核として日本の大学や日本語学校などとの連携に積極的。理工系だけで11学部(情報工学、化学・石油工学、機械工学、電気・電子工学、土木工学、応用科学、管理工学、環境科学、地質・石油工学、交通工学、材料科学)あり、2万6750人が在籍している。ベトナムの大学では、日本の大学で一般的に常設されている「就職課」がないことと、卒業時期が学生の単位取得状況により異なるため、卒業前内定率が他国と比べると低かったが、連携などを含め大学が就職で果たす役割を強めている。