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2015年12月30日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

2015-16年 雇用・労働法制の回顧と展望―(3)

派遣元による派遣先に対する雇用要請は労働者供給?

is1512.jpg 2015年の通常国会に再々提出された派遣法改正案は、与党間の合意により、14年の通常国会および臨時国会に提出された法案とは、いくつかの点で内容が異なるものとなる。

 派遣法の「運用上の配慮」について規定した25条に、「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方」が明記されたことはよく知られている(注1)が、以下にみるように、有期雇用派遣労働者の雇用安定措置について定めた30条も、その例外ではなかった(下線部が修正箇所)。

 2014年法案と2015年法案の比較(クリックすると開きます)

 派遣法30条にいう「特定有期雇用派遣労働者」の雇用安定措置を強化する。その狙いがこの一点にあったことはいうまでもない。しかし、派遣元事業主が同条1項1号に定める「派遣先に対し、特定有期雇用派遣労働者に対して労働契約の申込みをすることを求めること」は、厳密には「職業紹介」に該当する。これを業として=継続・反復して行うためには、有料であれ無料であれ、厚生労働大臣の許可を必要とする(注2)

 さらに、このような行為は、派遣法2条1号に定める「労働者派遣」ではなく(1号の後段にいう「当該他人【注:派遣先】に対し当該労働者【注:派遣労働者】を当該他人に雇用させることを約してするもの」に該当)(注3)、職安法4条6項に規定する「労働者供給」となり、これを業として行うと、「労働者供給事業」を禁止した職安法44条に違反する恐れすらある。

 そして、こうした法違反の可能性を回避する道は、現行法上、派遣法2条4号に定める「紹介予定派遣」による以外にはない。いささか難解ではあるが、下記の規定を併せ読めば、このように考えざるを得ない。

《職安法》

  (定義)
第4条
⑥ この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
  (労働者供給事業の禁止)
第44条 何人も、次条に規定する場合【注:労働組合等が無料で行う場合】を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
【参考】(第5章 罰則)
第64条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
  九 第44条の規定に違反した者

《派遣法》

  (用語の意義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
 四 紹介予定派遣 労働者派遣のうち、第5条第1項の許可を受けた者(以下「派遣元事業主」という。)が労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者及び当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者(第3章第4節を除き、以下「派遣先」という。)について、職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして、職業紹介を行い、又は行うことを予定してするものをいい、当該職業紹介により、当該派遣労働者が当該派遣先に雇用される旨が、当該労働者派遣の役務の提供の終了前に当該派遣労働者と当該派遣先との間で約されるものを含むものとする(注4)

 

 にもかかわらず、2015年の派遣法改正に当たっては、有料職業紹介事業の許可手続きを少しばかり簡略化したほかは、前述した職安法違反の可能性を払拭し、派遣法30条1項1号に規定する雇用安定措置を派遣元事業主が円滑に講じることができるようにするためのアクションは、まったく採られなかった。派遣法2条1号の改正を含め、必要な法改正を怠ったといわれても、仕方あるまい(注5) (つづく)

 

注1:その問題点については、拙著『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社、2015年)110-111頁を参照。
注2:職安法4条1項により、同法における「職業紹介」は「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう」と定義されている。なお、これを事業として行う場合の許可については、同法30条1項(有料職業紹介事業)および33条1項(無料職業紹介事業)を参照。
注3:派遣法2条1号後段の意義については、さしあたり拙著『労働法の「常識」は現場の「非常識」』(中央経済社、2014年)49-50頁を参照。
注4:派遣法2条4号の規定にもあるように、職業紹介事業を「届出」により行うことも可能ではあるが、その対象は、学校や農協等の特別の法人、地方公共団体が無料で職業紹介を行う場合に限られている。
注5:派遣法2条1号については、これを次のように改正する(下線部を追加する)ことが考えられる。詳しくは、拙稿「法改正を避ける行政――平成27年の派遣法改正に寄せて」『阪大法学』65巻4号(2015年11月)1頁以下、16-18頁を参照。

一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、第4号の紹介予定派遣及び第30条第1項第1号の措置に該当する場合を除き、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。

 なお、派遣法30条1項1号に定める雇用安定措置を派遣元事業主が講じる場合のように、派遣事業の一環として、これに付随して行われるものについては、職業紹介事業の許可を不要とすることも検討されてよい。

 

小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)等がある。


 

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