法律から姿を消した26業務、政令が残した18業務
2015年の改正派遣法が施行されるまで、派遣法には次のように定める規定が存在した。派遣受入れ期間の制限について規定した40条の2第1項がそれである。
第40条の2 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(次に掲げる業務を除く。略)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。
一 次のイ又はロに該当する業務であって、当該業務に係る労働者派遣が労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわないと認められるものとして政令で定める業務
イ その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務
ロ その業務に従事する労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務
二~四 略
以前は、1号にいう「当該業務に係る労働者派遣が労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわないと認められるものとして政令で定める業務」を26業務と呼んだ。
いかにも持って回った表現ではあるが、その意味するところは、26業務を「常用代替」つまり「派遣先の常用労働者が派遣労働者によって取って代わられること」の恐れのない業務として位置づけることにあった。
そして、今般の法改正により、40条の2第1項から、この1号が消える。正確には、以下にみるように、従前とは内容の異なる1号および2号と、これが置き換えられることになった(旧2号以下の規定は、1号ずつ繰下げ)。
第40条の2 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの業務について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。ただし、当該労働者派遣が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、この限りでない。
一 無期雇用派遣労働者に係る労働者派遣
二 雇用の機会の確保が特に困難である派遣労働者であってその雇用の継続等を図る必要があると認められるものとして厚生労働省令で定める者【注:60歳以上の者】に係る労働者派遣
三~五 略
しかし、派遣法に定める業務区分までがなくなったわけではない。以下にみるように、日雇い派遣の原則禁止とその例外について規定した同法35条の3が、法改正においても1条繰り下げられたことを除き、そのまま維持されたからである。
第35条の4 派遣元事業主は、その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務のうち、労働者派遣により日雇労働者(日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者をいう。以下この項において同じ。)を従事させても当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務として政令で定める業務について労働者派遣をする場合又は雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合を除き、その雇用する日雇労働者について労働者派遣を行つてはならない。
2 略
この35条の4第1項にいう「その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」とは、26業務の中核をなす専門業務のことをいう。こうした事情から、当該業務は先にみた40条の2第1項旧1号イの業務と一言一句異ならないものとして定められ、その内容を具体的に規定した派遣法施行令4条も、基本的に変更をみることなく今日に至っている(以下は現行規定。なお、1項各号に定める業務については、その略称を表記)。
第4条 法第35条の4第1項の政令で定める業務は、次のとおりとする。
一 情報処理システム開発の業務
二 機械設計の業務
三 事務用機器操作の業務
四 通訳、翻訳または速記の業務
五 秘書の業務
六 ファイリングの業務
七 調査またはその結果の整理・分析の業務
八 財務処理の業務
九 貿易に関する文書作成の業務
十 デモンストレーションの業務
十一 添乗の業務
十二 受付・案内の業務
十三 研究開発の業務
十四 事業の実施体制の企画・立案の業務
十五 書籍等の制作・編集の業務
十六 広告デザインの業務
十七 OAインストラクションの業務
十八 セールスエンジニアの営業、金融商品の営業に関する業務
2 略
他方、2015年の法改正によって、26業務とそれ以外の自由化業務(1999年の対象業務の原則自由化の結果、派遣の活用が認められた業務)との区分が解消された(その結果、26業務も、自由化業務と同様に、改正派遣法に定める2種類の期間制限=①事業所単位の期間制限、②個人単位の期間制限=を受けることになった)ことにより、従前次のように規定していた派遣法施行令5条は、削除(旧6条を1条繰り上げた規定が新5条となる)の運命をたどる(各号の表記は、略称による)。
第5条 法第40条の2第1項第1号の政令で定める業務は、前条第1項各号に掲げる業務及び次に掲げる業務とする。
一 放送機器操作の業務
二 放送番組等の制作の業務
三 建築物清掃の業務
四 建築設備運転等の業務
五 駐車場管理等の業務
六 インテリアコーディネータの業務
七 アナウンサーの業務
八 テレマーケティングの営業の業務
九 放送番組等における大道具・小道具の業務
十 水道施設等の設備運転等の業務
派遣法施行令4条1項に掲げる18業務には、事務用機器操作(3号)やファイリング(6号)、財務処理(8号)の各業務のように、自由化業務との区分が困難な業務が堂々と残る一方で、施行令5条には、そうした問題を感じさせない10業務が並んでいる(注1)。
また、施行令5条に掲げる業務には、水道施設等の設備運転等の業務(10号)のように、ようやく最近(2012年)になって、派遣受入れ期間の制限を受けない業務として位置づけられた業務も含まれている(注2)。
26業務のなかに、自由化業務との区分が困難な業務があるというのであれば、該当業務(施行令4条1項3号、6号および8号に定める3業務)を26業務から除外すれば足り、これを全廃して、新たに期間制限の対象とする必要などなかった。こういっても、間違いはあるまい(注3)。 (つづく)
注1:派遣法施行令4条1項には、いわゆる17.5業務が列挙された(従前は、4条1項12号に掲げる「受付・案内の業務」が、5条5号に掲げる「駐車場管理等の業務」と合わせて1業務とカウントされていた)。なお、2012年の施行令改正以降、派遣受入れ期間の制限を受けない業務(「令5条の業務」ともいう)は、計算上28業務を数えることになったが、26業務という呼称はその後も慣用的に使われていた。
注2:派遣法施行令5条3号、4号、5号および8号に掲げる業務(建築物清掃、建築設備運転、駐車場管理等、テレマーケティングの営業の各業務)については、かつての「行政指導に基づく3年の期間制限」の対象ともされていなかった、という経緯がある。拙著『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社、2015年)198-199頁を参照。
注3:26業務の全廃に代わる、派遣法および同法施行令の改正私案については、前掲・拙著『労働法改革は現場に学べ!』200-205頁を参照。
小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)、『労働法改革は現場に学べ!――これからの雇用・労働法制』(労働新聞社)、『法人職員・公務員のための労働法72話』(ジアース教育新社)等がある。