経団連が来年の新卒採用活動の解禁を6月からとすることを決めた。従来の4月から今年は8月に後ろ倒ししたものの、企業と学生の双方から不満が続出したことから、わずか1年で“前倒し”を決めた。朝令暮改の典型のような決定だが、その背景には企業側の身勝手さと改革意識の欠如が透けて見える。(報道局)
昨年まで、大学生の採用活動は3年時の12月に会社説明会、4月に面接などの採用活動が解禁となっていたが、「就職活動が長期化して、学業に支障が出る」との大学・学生側の批判を受け、経団連は今年からそれぞれ3月と8月に解禁時期を後ろにずらして、学生の就活の負担軽減を図った。
学生はいつまで企業の都合に振り回されるのか
=合同企業説明会
ところが、狙いは裏目に出て、経団連に加盟する約1300社以外の外資系企業やIT系企業などが早々に内定を出し、焦った傘下企業の中にも協定破りに踏み切る所も出たとされることから、学生側から「かえって就活期間が長くなった」と批判が続出。企業側からも、中小企業を中心に「せっかく内定を出しても、大企業に乗り換える学生が増えた」との不満が相次いだ。
内閣府がこのほど発表した面接日程の繰り下げに関する調査(複数回答)でも、4年生の57%は「就活の長期化で負担が大きくなった」と回答。47%が「卒業論文の時期と重なり、時間が十分に確保できなかった」と答えている。
こうした混乱の結果、政府の就職内定率調査では10月1日時点で66.5%と昨年を1.9ポイント下回り、10年以降5年ぶりに低下。就職希望者は約44.2万人、うち内定者数は約29.4万人と推定され、10月以降も15万人近い学生が内定を得られず、就活中とみられる。
経団連が8月から6月に変更したことで、事態は改善するだろうか。多くの関係者は懐疑的だ。解禁日をいつに設定しても非加盟企業は自由に採用活動ができ、傘下企業にしてもインターンシップなどの形で実質的な内定を出せるため、“協定破り”が横行する可能性は残るからだ。
学生にとっても、6月解禁だと4月から授業に出られる日が限られるうえ、エントリーシートの作成などに終われ、7月の期末試験にも影響が出かねない。3月からの会社説明会との間が今年より短くなり、内定を目指す企業選びにじっくり取り組む余裕もなくなる。その結果、ミスマッチが増えるのではないか、との懸念もある。結局、学生側の負担はそれほど変わらず、「優秀な学生」選びに血眼になる企業側の都合に振り回されることになりそうだ。
大学などで構成する「就職問題懇談会」は当初、2カ月前倒しの方針に対して「2年連続の変更は混乱を招く」として、少なくとも来年の現状維持を経団連に求めていた。それにもかかわらず、わずか1年で変更を強行したのは、学生のためというよりも、企業側の不満を緩和するのが狙いだったとみられる。
新卒一括採用方式は限界に
そもそも、新卒の一括採用方式は戦後高度成長期を背景にした終身雇用、年功序列が可能だったから定着したもので、現代の低成長期には合わない制度になっている。大卒の3割程度は毎年のように入社3年以内に退職しており、企業も業績悪化に際して早期退職などで人員削減を図る傾向が強まっている。
また、どの企業も「優秀な学生」に対するイメージが似通っているため、特定の学生に内定が集中する半面、それ以外の学生は長期の就活を余儀なくされるという非効率さも拡大している。加えて、ITの発達によってエントリーシート方式が一般的になり、就活支援会社が学生、企業の双方をあおる構図が定着するなど、一括採用はもはや限界に来ているのが混乱の最大要因だ。
一括採用を根本的に見直し、通年採用やインターンシップなどの拡充によって、人材確保を図る方がはるかに効率的な環境になっているが、企業側が見直しに踏み切れないのは人材に対する長期的な視点を持てないことの裏返し、と言ってよい。今回の「朝令暮改」はそれを象徴している。