改正派遣法(平成27年改正)が9月30日に施行された。成立した同11日の夕刻から政省令などを決める労働政策審議会が超高速日程で4回開かれ、労政審の建議(2014年1月29日)に明記されていた協議(変更)事項を一部先送りする格好で軟着陸した。9月中に3府県の労働局が「改正派遣法の説明会」を実施したが、東京都をはじめ大半の労働局主催の説明会は10月中旬以降となる。
派遣元の事業規制を格段に厳しくし、受け入れ企業の「果たすべき義務」も盛り込んだ大改正だけに、悪質派遣元・派遣先の徹底排除が期待される。しかし、人材というフィールドで「社会インフラ」として貢献したいと強い信念を持っている事業者でさえ、現時点では改正内容の明瞭・明快な「理解と解釈」に至らず、手さぐりで奔走中だ。成立から施行までの怒涛(どとう)の20日間と今後の展開を整理する。(報道局)
成立遅延のしわ寄せ、全4回約8時間の審議で帰着した労政審の記録
【9月11日・第1回】
改正派遣法の政省令策定で労政審スタート、労使が出方うかがう
成立から約4時間後の午後5時から開かれ、政省令などを決める議論がスタート。「省令または指針事項」や「建議等と政令・省令・告示との対応」、「政令案の内容」などについて、事務局の厚生労働省が国会審議の経過と骨格を示したが、成立当日の急な開催とあって労働者側は「質問や疑問はたくさんあるが、読み込めていないので本日はぶつけようがない」と事務局と使用者側をけん制。使用者側も労働者側の出方をうかがうスタンスに徹し、敢えて政省令に関する発言を控えた。
事務局の資料説明に続く議論では、各論に入る前の前提として、労働者側が「法案の(修正前の)施行日を越えた成立で、しかも施行を約3週間前にした状況での審議会。政府は重い責任を感じてもらいたい」と厳しく指摘した。
【9月15日・第2回】
政省令で本格議論、派遣元の責務が飛躍的に増加
この日も前回(11日)に続き、「建議等と政令・省令・告示との対応」、「改正法に係る政令案の内容」、「認可基準・許可条件」、「無許可事業主の公表」などについて、事務局の厚労省が案を追加提示した。
これに対して、労働者側から派遣先指針の中の「派遣先労働者との賃金水準と均衡が図られたものになるよう努めること」とした案について、「賃金水準には具体的にどんなものが入るのか。従来から問題になっている通勤交通費が入るか入らないかで、水準は大きく違って来るはずだから、指針で明確にすべきだ」との意見。また、派遣元に義務付けられた教育訓練についても、労働者側から「事業の許可要件になった以上、厳しいレベルで具体的に盛り込むべきではないか」との注文が付いた。
改正法では派遣元を一律許認可制にするなど、厳しい要件が課せられているが、政省令でも派遣労働者に対する教育訓練を「有給・無償」(雇用主による業務命令の格好)で行う規定などが固まった。
【9月17日・第3回】
改正派遣法でキャリア形成支援の業務取扱要領など提示、厚労省
この日は、事務局の厚労省から派遣元と派遣先の各指針案、施行規則の中の許可基準や講習内容、業務取扱要領の中のキャリア形成支援制度に関する許可基準などが初めて提示された。
キャリア形成支援制度については(1)段階的、体系的な教育訓練の実施計画、(2)キャリア・コンサルティングの相談窓口の設置、(3)派遣先の手続き提供、(4)教育訓練の時期・頻度・時間数等――といった具体的な基準を挙げ、(4)の教育訓練では、「雇用した派遣労働者の入職時訓練は必須」、「それを含む訓練はフルタイムで1年以上の雇用見込みのある労働者1人あたり、毎年8時間以上」と派遣元に義務付けた。
これに対して、使用者側から「年代、職歴など多様な派遣労働者がいて、それぞれのニーズも多様である以上、訓練内容は派遣元の裁量に任せるべきではないか」との意見が出た。
また、この日はかねてより見直しの予定だった日雇い派遣(原則禁止)の例外規定「年収500万円以上」についても、厚労省から「標準生活費」という支出ベースに基づく基礎数字の妥当性などについて問題提起があったが、使用者側からは「標準生活費などという概念の根拠がわからない。雇用拡大が目的なら大幅な収入要件の引き下げが必要」と主張。一方、労働者側は「この働き方は問題が多過ぎるために原則禁止になったことを忘れるべきではない」と反論。3年前の平成24年改正における労使の応酬の再現となり、本格議論は今回の改正法の政省令などが終わってから、10月以降に先送りすることが必至となった。
また、鎌田部会長からは「次回にも、取りまとめ案を提示したい」との発言があり、30日施行予定という窮屈すぎる日程のシワ寄せに苦慮している様子がうかがえた。
【9月18日・第4回】
改正派遣法の政省令・指針案を「概ね妥当」と答申、労政審
審議を展開してきた労政審・労働力需給制度部会は、改正労働者派遣法の関連政省令、派遣元・派遣先指針などについて厚労省案を「概ね妥当」として上部審の職業安定分科会に報告。その後、同分科会が開かれ、報告を了承し、正式に答申の手続きをとった。
同改正法は9月30日施行となったため、政省令も約1週間で取りまとめ、答申という異例の“超短期”審議という結果に。このため、今回の審議では労使双方から「時間が少な過ぎる」との不満が強く出ており、この日も労使の折り合いが付かなかったため、公益委員が労働者側委員、使用者側委員と個別協議を行い、報告にこぎ着けた。
日雇い派遣原則禁止の例外、「世帯年収500万円以上」の減額は10月以降
改正派遣法に関する今後の流れは…
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