第189通常国会は9月27日、245日間の会期を閉じた。第3次安倍内閣として初めて臨んだ通常国会。良くも悪くも、二院制の審議ルールの中で、最大限の手法を駆使して安倍首相の「信念」を概ね貫いたと言えよう。本欄では、安全保障関連法案と並んで注目を集めた厚生労働・雇用関係法案の結果と経過、今後の見通しを中心に整理する。 (報道局長兼労政ジャーナリスト・大野博司)
成立率は88%、「評価」は後世に委ねられる部分も
まず、全体を総括すると、政府提出法案の75本中、成立は66本で成立率は88.0%。衆参のねじれ国会が一昨年7月に解消し、「延長なし」で終えた昨年の通常国会の成立率が97.5%だったことを考えると、“議席数にモノを言わせた突進力”を前面に押し出してはいないこともうかがえる。野党やマスメディアへの「配慮」があったかも知れない。
しかし、精力的な外交を進めながらの245日間に、安倍首相が相応の政治エネルギーを投じたことは確かだ。メディアの評価と国民の意識に一定のズレが生じる傾向は珍しくない。そして、この10数年における国民のメディアリテラシーは格段に向上している。今国会の特徴は、安保関連のみならず、改正労働者派遣法など、「評価」「成果」「効果」が後世に委ねられる部分を持つ案件が際立ったことだ。
厚生労働・雇用関連11法案は7本成立、4本継続審議
厚生労働・雇用関連は、他省庁にまたがるものなどを含めて11本提出されたが、245日間で7本成立(成立率63.6%)は、召集直前に安倍首相が掲げた「改革断行国会」からすれば寂しい感もある。しかし、最終盤で衆院を通過しながらも、参院厚生労働委員会で処理できなかった2法案(社会福祉法改正案、確定拠出年金法改正案)が、安保関連のあおりを受けなければ成立率は81.8%に跳ね上がり、審議入りできなかったのは労働基準法改正案と外国人技能実習に関する新法の2法案だけとの見方もできる。
ただ、労基法改正案は「対決法案」の中でも“重量級”なので、11月上旬召集予定の臨時国会での審議入りは難しく、来年の通常国会で審議入りする公算が高い。このほか、法案別に下記に整理してみる。
【改正特別給付金支給法・成立】
戦後70周年に当たり、2015年4月1日時点における戦没者等の遺族に対し、特別弔慰金を支給する。
【改正国民健康保険法・成立】
持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく措置として、持続可能な医療保険制度等を構築するため、医療保険制度等の財政基盤の安定化、国民の負担に関する公平の確保、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化、患者申出療養の創設等の措置を講ずる。
【厚労省所管の独立行政法人改革推進法・成立】
「独立行政法人改革等に関する基本的な方針(2013年12月24日閣議決定)」に基づき、厚生労働省所管の独立行政法人改革を行うための所要の措置を講ずる。
【改正労働者派遣法(併せて、新法の同一労働・同一賃金法)・成立】
(改正派遣法)
派遣労働者の一層の雇用の安定、保護等を図るため、特定労働者派遣事業を廃止するとともに、労働者派遣の役務の提供を受ける者の事業所その他派遣就業の場所ごとに派遣可能期間を設けることとする等の所要の措置を講ずる。
(同一労働・同一賃金法)
維新が中心となって民主と生活の3党で共同提出(5月26日)していた「同一労働・同一賃金法案」とは別に、与党の自民と公明が新たに議員立法として共同提出し、可決させた。この新法は、野党3党が提出した内容そのままではなく、柔軟な労働力移動に必要な環境整備のひとつである理念の方向性は残したまま、法律の施行後3年以内に法制上必要な措置を講ずることなどの文言をいくつか盛り込んだ。
【改正勤労青少年福祉法(若者雇用促進法)・成立】
労働力人口が減少する中、我が国の経済社会の重要な担い手である青少年について、雇用の促進等を図り、能力を有効に発揮できる環境を整備するため、勤労青少年福祉法を、青少年の雇用の促進等のための法律として位置付け直すとともに、職業能力開発促進法等の関係法律について所要の措置を講ずる。
【改正医療法・成立】
医療機能の分化・連携を推進するため、地域医療連携推進法人(仮称)創設するとともに、医療法人制度について、医療法人の業務運営のための所要の措置を講ずる。
【社会福祉法改正案・継続審議】
福祉サービスの供給体制の整備及び充実を図るため、社会福祉法人制度について経営管理体制の強化、事業運営の透明性の向上等の改革を進めるとともに、福祉人材を確保するために介護福祉士の資格の取得方法の見直し、社会福祉施設職員等退職手当共済の退職手当金の額の算定方法の変更等の措置を講ずる。
【労働基準法改正案・継続審議】
労働者が、その健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するため、労働時間制度の見直しを行う等所要の改正を行う。
【確定拠出年金法改正案・継続審議】
企業年金制度等について、個人型確定拠出年金の加入者範囲の見直しや、小規模事業主による個人型の確定拠出年金への掛金の追加納付制度の創設等の措置を講ずる。
【女性活躍推進法案・新法(内閣官房)・成立】
法律の対象は従業員301人以上の企業(300人以下は努力義務)・政府・自治体で、施行は来年4月から。対象企業などは施行までに、以下の3点を実施しなければならない。中心となる「行動計画」には、企業が任意で数値目標を盛り込むが、目標達成については努力義務とした。政府は優良企業の「認定制度」を設け、受注機会の優遇策などを講じる。
(1) 自社の女性の活躍状況の把握と課題分析(必須項目として女性の採用比率、勤続年数の男女差、労働時間の状況、女性管理職比率。任意項目として非正規から正規への転換状況など)
(2) それを踏まえた行動計画の策定、労働局への届け出(定量的目標、取り組み内容、実施時期、計画期間などを策定、公表)
(3) ホームページなどでの情報公開(項目の内容は省令で規定)
【外国人技能実習に関する新法(厚労、法務両省共管)・継続審議】
技能実習について、実習実施機関の届出、監理団体の許可、技能実習計画の認定等の制度を設けるとともに、これらの事務を新設する技能実習機構(仮称)に行わせる等の所要の措置を講ずる。政府は、継続審議を見越したうえで、通常国会終盤の9月に衆院で「審議入り」している。
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