今国会に提出された、規制のかけ方を抜本的に見直す労働者派遣法改正案が、土壇場で施行日を約1カ月繰り下げるなどの修正を施して、9月11日に成立した。衆院で審議入りした5月12日から実に4カ月間の審議時間を要した、政府からすると“難産の末”の成立だが、その足跡をたどってみると、主人公である現場で働く派遣社員、適正な運用を念頭に置く事業者、派遣先の3者を第一義に考えて「奔走」していたかは疑問が残る。施行まで10日を切った改正派遣法の成立までの道のりを記録する。(報道局)
一線を越えた衆院採決の野党の“抵抗”
【2015年1月】
30日=自民と公明の政務調査会が、「4項目・6点の修正」を加えることを前提に、26日に召集した今国会提出で合意。併せて、与党政調間の合意文には記されなかったが、施行期日は当初の「4月1日」から「9月1日」に変更することが確定し、それに沿った法案作成が進む。
【3月】
3日=公明の厚生労働部会と政務調査会が与党修正を施した、新たな改正法案を了承。
5日=自民の厚生労働部会が同じく改正法案を了承。
5日=議院運営委員会の理事会で重要広範議案に指定される。
10日=自民総務会が改正法案を了承。
13日=政府が閣議決定し、即日、衆議院に改正法案を提出。
【5月】
12日=衆院本会議:塩崎恭久厚労相が提案理由と趣旨説明をし、与野党5議員が代表質問。
13日=衆院厚労委:塩崎厚労相が提案理由と趣旨説明。
15日=同:与野党9委員が質疑。野党は厚労省が国会議員への事前説明に使用した資料に不適切な表現があるとして、審議には臨むも「一般質疑」の姿勢で出席。
20日=同:与野党8委員が質疑。厚労省の不手際を問いただす内容が多く、改正案の内容自体に踏み込んだ議論には程遠い質疑となった。
27日=同:与野党13委員が質疑。質疑の方向性は2つに大別され、一つは改正法案の内容に関する確認や指摘、課題などについて。もう一つは、厚労省の不手際を繰り返し問いただす「入り口論」に終始。また、野党3党が26日に提出した「同一労働・同一賃金法案」の趣旨説明を提出者代表が行った。
28日=同:「参考人招致」(参考人の意見陳述)を実施。人選は事実上、与党(自民・公明)と民主、維新、共産がそれぞれ行い、5参考人がそれぞれの知見と経験などを基に意見陳述した後、5政党の委員が意見を聴いた。
29日=同:政府提出の派遣法改正案と、野党が共同提出した「同一労働・同一賃金法案」を同時並行で審議。約7時間にわたる審議全体では、政党としての基本姿勢に一定の方針はありながらも、問題意識やこだわる部分は委員個人の信念や経験に基づく場面が際立った。
【6月】
2日=同:2度目の参考人招致を実施。4参考人から5政党の委員が意見を聴いた。
3日=同:日本年金機構の個人情報流出問題で集中審議。
5日=同:2回目となる日本年金機構の個人情報流出問題の集中審議。
10日=同:与党のみで審議。
12日=同:安倍晋三首相が審議に入る。退席後、委員長の質疑終結宣言をめぐり、民主委員らによる暴力的な“妨害行為”があった。
17日=同:民主、共産の補充質疑。
19日=同:賛成多数で可決、同日に本会議も通過。自公と維新の修正による「同一労働・同一賃金法案」も通過。
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【7月】
8日=参院本会議:塩崎厚労相が提案理由と趣旨説明をし、与野党5議員が代表質問。
14日=参院厚労委:塩崎厚労相が提案理由と趣旨説明。
30日=同:与野党10委員が質疑。本格審議に向けた「入り口論」や法律制定(1985年)当時からの経過、統計資料などの「前提確認」に終始する質疑が目立った。
【8月】
4日=同:与野党から9委員が質問に立ち、それぞれの視点や専門分野から政府の見解をただした。「雇用安定措置の義務化」など、各委員が改正案の中から核となる部分に的を絞り、その実効性の担保や具体例について有効性と懸念材料の両面を掘り下げた。
6日=同:名古屋市で地方公聴会を実施。招かれた公述人の4氏がそれぞれの経験、体験、現場感覚などを踏まえて意見陳述した後、8会派の委員が公述人から主張や見解などを聴いた。派遣法改正案で、衆院厚労委は2回の参考人招致(中央公聴会)を実施したが、地方公聴会は参院厚労委が初めて。この日は、技術者派遣企業(常用雇用型で労働組合を有する)を訪問して視察調査・質疑応答を行い、場所を移して午後1時から公聴会を開始した。
11日=同:与野党9委員がキャリアアップ(教育訓練)などを事業者の許可(更新)要件とすることなどに質疑が集中した。
18日=同:自公と維新の修正による「同一労働・同一賃金法案」の集中審議。
19日=同:自公と維新の修正による「同一労働・同一賃金法案」の参考人質疑。
20日=同:派遣法改正案の参考人質疑。
25日=同:日本年金機構の個人情報流出問題で集中審議。
26日=同:派遣法改正で2回目の参考人質疑。
27日=同:午前中は派遣法改正案を絡めた一般質疑。午後は日本年金機構の個人情報流出問題で集中審議を行ったが、同機構理事長の不明瞭な答弁で流会。
【9月】
1日=同:流会となった27日の残りの質疑と、派遣法改正案の質疑。
3日=同:午前の審議に安倍晋三首相が入る。午後は日本年金機構の個人情報流出問題の質疑。
8日=同:施行日を9月30日などに修正した派遣法改正案と自公と維新の修正による「同一労働・同一賃金法案」の採決が行われ、いずれも賛成多数で通過。
9日=参院本会議で両法案が可決。「同一労働・同一賃金法案」は成立。
11日=修正を施した派遣法改正案が衆院に回付され、本会議で賛成多数で可決。
11日=政省令などを定める労働政策審議会がスタート。
15日=2回目の労政審。予定の2時間を大幅にオーバーして議論。
17日=3回目の労政審。今回の審議で目玉のひとつとなっていた「日雇い派遣の原則禁止の例外(属性)」にある「年収500万円以上の人」に関する事実上の減額検討が、10月以降に見送られる。
18日=労政審が意見書を取りまとめ、厚労相に政省令などの政府案を「概ね了承」で答申。
18日=改正派遣法が官報告示。
25日=政令の閣議決定の予定。
※29日までに省令や業務取扱要領の公布予定。
30日=改正派遣法施行予定。
10月1日=「平成24年改正」に盛り込まれている「労働契約申し込みみなし制度」の発動予定。
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