戦後最大となる95日間の会期延長を展開している第189回国会は、平日では残すところあと12日の最終盤を迎えた。今国会召集にあたり、安倍晋三首相は各種の政策を視野に「改革断行国会」を掲げて臨んだ。最大野党でも衆院で約70人の「1強多弱」の議席数と、政権の安定感などを背景に、政府提出法案は結果(成立率)を出すと見られていたが、全体的に上滑りの感がある。「高度プロフェッショナル制度」導入などの雇用改革と労働者保護を念頭に置く労働基準法改正案は着手もできず、労働者派遣法改正案に至っては法案に記されている施行日を過ぎても参院で審議中という現状だ。雇用・労働関係の各種法案の今国会の成立状況などを整理する。(報道局)
若者雇用推進法案など成立へ、労基法改正案は成立断念、派遣法も正念場
安全保障関連法案に次いで、今国会でマスメディアの注目度が高い厚生労働省関係法案。厚労関係は9本、他省庁の所管または共管となる雇用・労働関係法案2本の計11本が、閣議決定された「政府提出法案」だ。厚労関連11法案は下記の通り。
(1)戦後70年、戦没者の妻らに対する特別給付金支給法改正案
(2)国民健康保険法改正案
(3)厚労省所管の独立行政法人改革推進法案
(4)労働者派遣法改正案(与党・維新3党修正の「同一労働・同一賃金法案」)
(5)勤労青少年福祉法改正案(若者雇用促進法案)
(6)社会福祉法改正案
(7)医療法改正案
(8)労働基準法改正案
(9)確定拠出年金法改正案
(10)女性活躍推進法案・新法(内閣官房・内閣委員会)
(11)外国人技能実習に関する新法(厚労、法務両省共管・法務委員会)
(1)戦後70年、戦没者の妻らに対する特別給付金支給法改正案は3月31日に成立。
(2)国民健康保険法改正案は5月27日に成立。(3)厚労省所管の独立行政法人改革推進法案は4月24日に成立している。
(4)労働者派遣法改正案と与党・維新3党修正の「同一労働・同一賃金法案」(議員立法)は6月19日に衆院を通過し、参院で7月8日に審議入り。日本年金機構による個人情報流出問題なども絡み、審議が難航。派遣法改正案に至っては、法案施行日の9月1日を過ぎても成立に至っていない。採決は今週との見方がある一方で、そのための野党に配慮した“環境整備”として、施行日修正(9月30日へ繰り下げ)にとどまらず、一層の事業規制強化の修正や付帯決議など、極めて不透明な水面下の「調整と攻防」が展開されており、予断を許さない状況が続いている。
「同一労働・同一賃金法案」は会期末にかけて、今後、派遣法改正案とセットで動いていく見通しだ。
(5)勤労青少年福祉法改正案(若者雇用促進法案)は参院先議で4月17日に可決・通過。衆院では9月4日に衆院厚労委で可決。今週の本会議で可決・成立となる。
(6)社会福祉法改正案は7月31日に衆院本会議で可決。参院に送られたが、参院での審議は始まっていない。
(7)医療法改正案は8月7日に衆院本会議で可決。参院では審議されていない状況だ。
(8)労働基準法改正案は与野党の対決法案のひとつで、審議入りもままならず、着手できずに終える。今秋の臨時国会でも会期が短く、成立は厳しいとの見方が支配的だ。
(9)確定拠出年金法改正案は9月3日に衆院本会議で可決。こちらも、参院では審議されておらず、成立は微妙な情勢だ。
11法案中、成立4本、衆参いずれかの可決5本、審議入り1本、未着手1本
(10)女性活躍推進法案・新法(内閣官房・内閣委員会)は、衆院本会議で6月4日、自民と公明、民主の与野党3党が提出した修正案を賛成多数で可決、参院に送付した。参院内閣委員会で8月25日に可決、同28日参院本会議で可決・成立した。現在、すでに省令などを定める労働政策審議会がスタートしている。
(11)外国人技能実習に関する新法(厚労、法務両省共管・法務委員会)は、認可法人の技能実習機構(仮称)を新たに創設し、「管理監督体制の強化」と「制度拡充」という両面を進めるのが柱。新たな機構創設が絡む「予算措置案件」であり、既に成立して新機構が動き出しているはずの時期だが、遅れている。民法改正という“命題”も未着手の法務委員会だが、国際的に政府の姿勢が問われる案件だけに、まさに「最終盤」でどのような取り扱いをするのか注視される法案のひとつだ。9月3日に衆院本会議で審議入りし、4日に法務委員会でも審議入りしている。ただし、今国会での成立は容易でなく、政府は今秋の臨時国会での成立を視野に入れている模様だ。
以上をまとめると、関係11法案中、成立は4本、衆参いずれかの可決が5本、審議入りが1本(外国人技能実習に関する新法)、未着手が1本(労働基準法改正案)という終盤総括となる。