規制のかけ方を抜本的に見直す労働者派遣法改正案について、参院での審議が佳境に入っている。政府は近く、改正法案に記されている施行日の「9月1日」を「9月30日」の線で修正する。仮に今週中に法案の成立が見込める状況になったとしても、政省令などを定める労働政策審議会の実施、パブリックコメント(意見公募)の実施、それらを踏まえた事業者に対する「業務取扱要領」の大幅更新など、施行に必要な作業日程から逆算すると、すでにデッドラインを過ぎているためだ。国会や政府にとっては当然の修正だが、改正法案の主人公である派遣社員や派遣元事業者らにとっては「遅過ぎる修正」と映り、政府・与党の体裁を優先した段取りと、野党のこれまでの日程戦術に不満の声が高まっている。改正法案の審議経過と最終盤となる今後の展開を整理する。(報道局)
派遣法改正案の8月17日までの経過
「政治法」と揶揄(やゆ)される派遣法。相変わらず、悪い意味で“踏襲”している状況だ。衆院での審議時間は、同法の初制定時の30年前、1999年のネガティブリストへの改正、2005年解禁となった製造業務派遣の審議時間などをいずれも上回っている。参院でも、委員会審議のみならず、地方公聴会や参考人招致(予定)などを重ねている。
「大改正」にはなり損ねたが、民主政権時の2010年6月に、衆院厚労委で政府提出法案(登録型、製造業務、日雇いの3つの原則禁止など)の審議を1日だけで採決・可決に持ち込もうとした事実に比べれば、十分に慎重な委員会運営と言える(結果的に、当時の鳩山由紀夫首相が当日朝、別案件で引責辞任したため、委員会は流会した)。
今年の年明けからの派遣法改正案の動きを追うと、以下のような流れになる。
【2015年1月】
30日=自民と公明の政務調査会が、「4項目・6点の修正」を加えることを前提に、26日に召集した今国会提出で合意。併せて、与党政調間の合意文には記されなかったが、施行期日は当初の「4月1日」から「9月1日」に変更することが確定し、それに沿った法案作成が進む。
【3月】
3日=公明の厚生労働部会と政務調査会が与党修正を施した、新たな改正法案を了承。
5日=自民の厚生労働部会が同じく改正法案を了承。
5日=議院運営委員会の理事会で重要広範議案に指定される。
10日=自民総務会が改正法案を了承。
13日=政府が閣議決定し、即日、衆議院に改正法案を提出。
【5月】
12日=衆院本会議:塩崎恭久厚労相が提案理由と趣旨説明をし、与野党5議員が代表質問。
13日=衆院厚労委:塩崎厚労相が提案理由と趣旨説明。
15日=同:与野党9委員が質疑。野党は厚労省が国会議員への事前説明に使用した資料に不適切な表現があるとして、審議には臨むも「一般質疑」の姿勢で出席。
20日=同:与野党8委員が質疑。厚労省の不手際を問いただす内容が多く、改正案の内容自体に踏み込んだ議論には程遠い質疑となった。
27日=同:与野党13委員が質疑。質疑の方向性は2つに大別され、一つは改正法案の内容に関する確認や指摘、課題などについて。もう一つは、厚労省の不手際を繰り返し問いただす「入り口論」に終始。また、野党3党が26日に提出した「同一労働・同一賃金法案」の趣旨説明を提出者代表が行った。
28日=同:「参考人招致」(参考人の意見陳述)を実施。人選は事実上、与党(自民・公明)と民主、維新、共産がそれぞれ行い、5参考人がそれぞれの知見と経験などを基に意見陳述した後、5政党の委員が意見を聴いた。
29日=同:政府提出の派遣法改正案と、野党が共同提出した「同一労働・同一賃金法案」を同時並行で審議。約7時間にわたる審議全体では、政党としての基本姿勢に一定の方針はありながらも、問題意識やこだわる部分は委員個人の信念や経験に基づく場面が際立った。
【6月】
2日=同:2度目の参考人招致を実施。4参考人から5政党の委員が意見を聴いた。
3日=同:日本年金機構の個人情報流出問題で集中審議。
5日=同:2回目となる日本年金機構の個人情報流出問題の集中審議。
10日=同:与党のみで審議。
12日=同:審議終結にあたり、民主委員らによる暴力的な“妨害行為”があった。
17日=同:民主、共産の補充質疑。
19日=同:賛成多数で可決、同日に本会議も通過
【7月】
8日=参院本会議:塩崎厚労相が提案理由と趣旨説明をし、与野党5議員が代表質問。
14日=参院厚労委:塩崎厚労相が提案理由と趣旨説明。
30日=同:与野党10委員が質疑。本格審議に向けた「入り口論」や法律制定(1985年)当時からの経過、統計資料などの「前提確認」に終始する質疑が目立った。
【8月】
4日=同:与野党から9委員が質問に立ち、それぞれの視点や専門分野から政府の見解をただした。「雇用安定措置の義務化」など、各委員が改正案の中から核となる部分に的を絞り、その実効性の担保や具体例について有効性と懸念材料の両面を掘り下げた。
6日=同:名古屋市で地方公聴会を実施。招かれた公述人の4氏がそれぞれの経験、体験、現場感覚などを踏まえて意見陳述した後、8会派の委員が公述人から主張や見解などを聴いた。派遣法改正案で、衆院厚労委は2回の参考人招致(中央公聴会)を実施したが、地方公聴会は参院厚労委が初めて。この日は、技術者派遣企業(常用雇用型で労働組合を有する)を訪問して視察調査・質疑応答を行い、場所を移して午後1時から公聴会を開始した。
11日=同:与野党9委員がキャリアアップ(教育訓練)などを事業者の許可(更新)要件とすることなどに質疑が集中した。
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今後の展開と着眼点
これまでの審議を総括すると、野党でも維新の一部に「日程闘争だけの国会」からの脱却を目指す強い意識を持った議員も見受けられたが、「変革」には至っていない。マスメディアも相変わらずステレオタイプの報じ方が繰り返し散見される。政府・与党案の細部まですべてが「絶対」ではない。野党主導で「重要広範議案」と位置付けた以上、本来なら冒頭から「政府案と対案のぶつけ合い」による徹底審議が展開されるべきだった。
そうした中、延長国会も実質的に残り約1カ月となっている。法改正案は今後、どのような展開をたどるのか。各方面への取材を総合すると…
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