働く高齢者が急増している。65歳以上は公的年金の完全受給年代だが、年金だけで生活できる高齢層が少ないこと、仕事に生きがいを見出す元気な高齢者が増えていることなどが原因とみられ、生産年齢人口の減少を補う大きな勢力になっている。(報道局)
総務省の労働力調査によると、5月の就業状態別人口では65歳以上の就業者は749万人で、1年前より56万人も増えている。生産年齢人口(15~64歳)が5652万人と同53万人減少しているのを完全にカバーしている形だ。この中心になっているのが65~69歳の団塊の世代だ。
同調査の長期時系列データに5歳刻みの年間データがある。その中から65~69歳の層をみると、2014年の就業者は363万人(前年比9.1%増)で就業率は40.1%。高齢社会の進展とともに、働く高齢者は長期的に増え続けており、09年に302万人と300万人の大台を突破し、就業率は36.2%。その後、就業者数、就業率とも上昇を続け、14年に就業率は40%の大台を突破した=グラフ。この就業率はバブル崩壊直後の1991~92年当時と同じ水準だ。当時はまだ人口は減少していなかったことから、当時と今回の増加率の意味合いはかなり違うと言える。今回の方が労働力人口の減少を緩和する役割が大きい。
年金めぐる事情が背景に
大きな要因が年金だ。年金制度の改正によって、報酬比例部分は60歳から、基礎年金部分は65歳からというこれまでの受給開始年齢がさらに繰り上げられ、13年度から報酬比例部分も3年ごとに1歳ずつ引き上げられた。25年度には全員が65歳受給になる。現在はその経過期間中だが、政府は高年齢者雇用安定法を改正して、60歳になった高齢社員も希望者には年金受給年齢まで継続雇用することを企業に義務付けた。
もう一つは、年金受給額の水準が低いこと。厚生労働省によると、14年度の場合、退職会社員がもらう厚生年金で月22.6万円、自営業者などの国民年金で同12.8万円(いずれも夫婦2人の平均額)となっており、サラリーマンOBはともかく、国民年金だけでの生活はかなり厳しいのが実情だ。このため、流通、医療・介護、宿泊・飲食など、人手不足にあえぐサービス業界を中心に、高齢者の就業が急増している。就労形態はほとんどがパート、契約、嘱託などの非正規就労で、就業人口に占める非正規比率の増加は高齢者の増加が主要因となっている。
厚労省では、65歳以上の高齢者を雇用する企業には初年度で最大90万円を支給する助成制度を設けているが、この金額をさらに増やす方向で検討を進めている。日本では、健康上の問題がなく日常生活を普通に送れる健康寿命は、男性が71.19歳、女性が74.21歳(13年度)と、どちらも70歳を超えており、元気な高齢者が増えていることから、「働く年金世代」は当分増え続けるとみられる。