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2015年7月 6日

戦後最大の延長幅に踏み切った通常国会の審議状況

それでも今国会で「成立」厳しい労働基準法改正案

is150706.JPG 第189回通常国会は、戦後最大となる95日間の会期延長に突入した。今国会に提出された複数の“重量級法案”の審議展開と、来年7月実施の参院選(半数改選)などを見据えると、大幅延長は開会前から政府の“既定路線”だった。春先の段階で、大半の国会議員は8月上旬までの海外視察・研修などを入れていなかったが、政府と与党幹部はそれを大きく上回る9月下旬までの延長に踏み切った。主眼は安全保障関連法案の成立にあるが、この延長が雇用・労働関係の各種法案にどのような影響を与えるか、現状を整理して展望した。(報道局)

会期245日間となった通常国会、今は中盤?終盤?

 本来、通常国会の会期は150日間。延長は1回(臨時国会は2回まで)だけなので、今国会に限らず、政府サイドにすれば中途半端な延長で、目的の法案が成立にこぎ着けられない場合に生じる政権ダメージは大きい。批判が党内外から沸き上がり、時の内閣は弱体化する傾向にある。

 とは言え、大幅延長には賛否の声が聞こえる。「政府の覚悟が伝わる」といった称賛もあれば、「150日プラスαで衆参の可決を取れる範囲内が常識」との厳しい指摘も少なくない。では、今回の延長によって国会全体の「現在地」を示す表現はどのように変わったのか。150日間の場合、3分割すると約50日ずつで「序盤・中盤・終盤」。2分割だと約75日を境に「前半・後半」とするのが一般的なマスコミの表現だ。日数だけでなく、春の大型連休の前後をひとつの節目に言い回しを使い分けることもある。

 今回はどうなったのだろうか。1月26日から245日間の会期となったことで、先の一般論をそのまま当てはめると、概ね「4月16日までが序盤、7月5日までが中盤、7月6日以降が終盤」。2分割では5月27日を分岐点に後半に入ったことになる。会期末まで残り3週間を切ると、政治部記者らは「最終盤」と記述することも。

 150日間で一度仕切り直しをして、延長分の日数を「延長国会の前半」「延長国会も終盤」とする言い方もある。“言葉遊び”に聞こえるかもしれないが、戦後初の出来事であるだけに、きっちりと押さえておきたい。総合すると、7月6日から「延長を含む会期全体の中で終盤国会に入った」と言える。

厚生労働と他省庁の雇用関連法案は11本、成立は3本の現状

 国会全体の日程感を大局的に踏まえたうえで、注目度の高い厚生労働省関係の法案9本、他省庁の所管または共管となる雇用・労働関係法案2本の計11本を見てみると、進展状況は率直に言って芳しくない。野党サイドにすれば、議席数が圧倒的に少ない「1強多弱」の国会で、手法の是非はともかく、巨大与党を相手に気を吐いていると一定の評価はできるだろう。ただ、野党第一党が政権復帰へ流れを引き付けるような「国民的なムード」になっていない。

  さて、政府が提出した厚労関連11法案は下記の通りだ。

(1)戦後70年、戦没者の妻らに対する特別給付金支給法改正案
(2)国民健康保険法改正案
(3)厚労省所管の独立行政法人改革推進法案
(4)労働者派遣法改正案(与党・維新3党修正の「同一労働・同一賃金法案」)
(5)勤労青少年福祉法改正案(若者雇用促進対策法案)
(6)社会福祉法改正案
(7)医療法改正案
(8)労働基準法改正案
(9)確定拠出年金法改正案
(10)女性活躍推進法案・新法(内閣官房・内閣委員会)
(11)外国人技能実習に関する新法(厚労、法務両省共管・法務委員会)

 (1)3月31日に成立。(2)5月27日に成立。(3)4月24日に成立。(4)は6月19日に衆院を通過し、参院で7月8日前後の審議入りが見込まれている。(5)参院先議で4月17日に可決・通過。衆院では7月6日時点で審議入りしていない。(6)は7月3日に衆院厚労委員会で審議入りしたばかり。(7)~(9)は衆参ともに未着手の状態だ。

 (10)は、衆院本会議で6月4日、自民と公明、民主の与野党3党が提出した修正案を賛成多数で可決、参院に送付した。参院内閣委員会で審議が始まるが、与党の筋書き通りの進行にはなっていない。(11)は、認可法人の技能実習機構(仮称)を新たに創設し、「管理監督体制の強化」と「制度拡充」という両面を進めるのが法案の柱。新たな機構創設が絡む「予算措置案件」であり、既に成立して新機構が動き出しているはずの時期だが、未着手の状態だ。民法改正という“命題”も未着手の法務委員会だが、国際的に政府の姿勢が問われる案件でもあるだけに、まさに「最終盤」でどのような取り扱いをするのか注視される法案のひとつだ。

 以上をまとめると、関係11法案中、延長国会に入った段階で成立は3本、衆参いずれかの可決が3本、審議入りが1本、未着手が4本という中間総括となる。日本年金機構の個人情報流出問題などで「足踏み」をしている様子が審議状況をみても明らか。

 派遣法改正案の参院審議の動向も、予断を許さない様相を呈している。また、法案提出(4月3日)時点で既に「着手も厳しい」とみられていた与野党対決法案の労働基準法改正案は、大幅会期延長という追い風にも乗れず、終盤国会で活発になる与野党国会対策の水面下で駆け引きの“材料”の筆頭格にある。約3カ月の大幅延長は、日程という物理的な見方や表層取材では「時間的に成立も?」と言えるが、安全保障関連法案を軸にした現在の国会対策の底流の動きは、それほど平板でない。

 終盤国会では、雇用・労働関係の政府提出法案だけではなく、基準法改正案の前に与党議員らによる各種「議員立法」の提出も進んでいる。国会運営を担う与党の強い意向も相まって、政府が総合的・複合的な政治判断で基準法改正案の「今国会の成立、または審議入り断念」を表明する時期が、日に日に近づいている。

 

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