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2015年6月 4日

<緊急提言>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

「労働契約申込みみなし」規定―施行日の延期を―(終)

未解決の問題③――派遣先等でもはや就業していない者にも「労働契約申込みみなし」規定は適用されるのか

is1505.jpg 派遣法40条の6第2項および第3項を素直に読めば、その答えは「YES」となる。小職が「労働契約申込みみなし」規定に批判的であった理由の一つも、このような解釈を前提として、その過剰規制を問題とすることにあった(注5)

 確かに、派遣期間が終了し、労働者が派遣先等で既に就業していない場合、労働契約は成立しない(違法行為が終了した時点から1年間は、申込みを撤回できないとはいっても、承諾の結果「成立」する労働契約の期間は既に満了している)とする考え方もなくはない。労働政策審議会職業安定分科会の労働力需給制度部会では、その旨の説明を担当課長が行ったとも聞く。

 とはいえ、派遣法40条の6は、基本的に裁判規範であって、その解釈は裁判官の手に委ねられる。行政解釈は、司法判断に多少影響を与えることはあっても、その判断を拘束するものではない。先にみたケースでは、厚生労働大臣が標記の問いに対する「YES」の回答を前提とした指導や勧告は行わない(40条の8第2項[注6]を参照)。せいぜい現場が期待できるのは、そのレベルにとどまる。

 「労働契約の申込みみなしを前提として、派遣先に承諾の意思表示を行うと同時に団体交渉を申し入れ、労働局には指導を飛び越えて勧告を求めるとともに、裁判にも訴える。改正法が施行された暁には、そうした世界が現実のものとなる」(注7)

 現状を放置したままでは、裁判官も判断に窮するし、不当労働行為(団交拒否)の救済申立てを受けた労働委員会は、おそらくお手上げとなる。ただ、立法府=国会であれば、このような混乱が生じるのを未然に防止することもできる。

 そうした手立てを講じるまでは、40条の6以下の規定を施行しない。はたして、その決断ができるかどうか。それが今、国権の最高機関には問われているのである。
 

注5:小嶌・前掲(注3)288頁を参照。
注6:派遣法40条の8第2項は、「厚生労働大臣は、第40条の6第1項の規定により申し込まれたものとみなされた労働契約に係る派遣労働者が当該申込みを承諾した場合において、同項の規定により当該労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が当該派遣労働者を就労させない場合には、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、当該派遣労働者の就労に関し必要な助言、指導又は勧告をすることができる」と規定する。
注7:小嶌・前掲(注3)285頁。

 

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小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)等がある。『文部科学教育通信』に「続 国立大学法人と労働法」を、『週刊労働新聞』に「提言 これからの雇用・労働法制」をそれぞれ連載中。
 

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