未解決の問題①――同一の労働条件とは何か
従前と「同一の労働条件」を引き継ぐ。こうした派遣法の考え方は、労働契約法18条(有期労働契約の無期転換)や同法19条(雇止め法理の適用)のみなし規定にも、共通してみられることは、以前にも言及した(注1)。
しかし、労働契約法のみなし規定が適用される場合には、自社の就業規則を含め、自らが締結した労働契約に定める労働条件をそのまま引き継げば足りるのに対して、派遣法のみなし規定が適用される場合には、引き継ぐべき労働契約がそもそも存在しない、という問題もある。
このような場合、「同一の労働条件」とはいっても、それは、派遣先が関知しない派遣元事業主と派遣労働者との間で締結された労働契約(就業規則を含む)に定める労働条件と同一内容の労働条件を引き継ぐことを意味し(派遣法40条の6第4項もこのことを前提としている)、その内容が自社の就業規則等に定める労働条件とうまく適合しない可能性は依然として残る。
立法者の念頭には賃金しかなかったのかもしれないが、労働条件はもとより賃金に限定されるわけではない。例えば、常勤スタッフは週40時間、非常勤スタッフは週30時間というように、所定労働時間に違いがある場合、派遣スタッフであれば週35時間で受け入れることができたとしても、自社のスタッフとして雇用するということになれば、そうした取扱いを維持することは、当然困難になる。
他方、申込みみなしの結果、承諾の意思表示により、派遣先と派遣労働者との間で労働契約が新たに締結されるとはいっても、それは「擬制された合意」に基づくものにすぎず、労働契約法7条によって問題を処理することは、到底認めがたい(注2)。
結局は、いったん「擬制された合意」に基づいて成立した労働契約を解約して、既存の就業規則を適用する形で労働契約を再締結するしかない、といった声も現場では聞くが、労働者の側がこれに応じなかった場合には、打つ手がないという現状にある。
こうした規定を放置したまま、改正規定を施行するのは、あまりにも無責任といわざるを得まい。
注1:小嶌「派遣法の『労働契約申込みみなし制度』」(4、最終回)を参照。
注2:小嶌・前掲(注1)を参照。ただ、労働契約法7条(12条)の適用を前提として考える傾向は、実務家の間でも強い。『経営法曹研究会報』81号(15年5月)22頁以下所収の「第38回経営法曹会議 労働法実務研究会『今、改めて派遣について考える』」のパネル討議を参照。
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<緊急寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん
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小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)等がある。『文部科学教育通信』に「続 国立大学法人と労働法」を、『週刊労働新聞』に「提言 これからの雇用・労働法制」をそれぞれ連載中。