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2015年6月 1日

<緊急提言>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

「労働契約申込みみなし」規定―施行日の延期を―(1)

はじめに――異常事態にある派遣法40条の6

is1505.jpg 法律の内容は、可能な限り明確でなければならない。その意義が明確でない場合には、これを明確にする責任が国会にはある。裁判官が解釈に困るような、あるいは複数の解釈が可能になるような法律は、そもそも制定すべきではないし、仮にそのような疑義が存在する場合には、法律が施行される前に、そうした疑義を国会はその責任において払拭しなければならない。

 「労働契約申込みみなし」について次のように定める、派遣法40条の6(国会で現在審議中の改正法案が成立したと仮定した場合の規定。アンダーラインは小職による)には、このように裁判官が解釈に困るような、あるいは複数の解釈が可能になるような条項が、以下にみるように幾つか残されている。

第40条の6 労働者派遣の役務の提供を受ける者(略)が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りでない。

一 第4条第3項の規定に違反して派遣労働者を同条第1項各号のいずれかに該当する業務に従事させること。
二 第24条の2の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。
三 第40条の2第1項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること(同条第4項に規定する意見の聴取の手続のうち厚生労働省令で定めるものが行われないことにより同条第1項の規定に違反することとなったときを除く。)。
四 第40条の3の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。
五 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。
2 前項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働契約の申込みに係る同項に規定する行為が終了した日から1年を経過する日までの間は、当該申込みを撤回することができない。
3 第1項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該申込みに対して前項に規定する期間内に承諾する旨又は承諾しない旨の意思表示を受けなかったときは、当該申込みは、その効力を失う。
4 第1項の規定により申し込まれたものとみなされた労働契約に係る派遣労働者に係る労働者派遣をする事業主は、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から求めがあった場合においては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、速やかに、同項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた時点における当該派遣労働者に係る労働条件の内容を通知しなければならない。

 

解釈が明確にはなっていない条項
① 1項本文および4項にいう「労働契約の申込みをしたもの」とみなされる違法行為が行われた「時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件」または当該「労働条件の内容」とは何か。
② 1項5号にいう「この法律又は次節の規定により適用される法律(注:派遣法または労基法等)の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに(注:労働者派遣契約を締結せずに)労働者派遣の役務の提供を受けること」=「労働契約申込みみなし」の対象となる偽装請負とは何か。
③ 2項にいう、1項に規定する違法「行為が終了した日から1年を経過する日までの間」に派遣期間が終了し、もはや派遣先等で就業していない者にも「労働契約申込みみなし」規定は適用されるのか(3項を併せ参照)。

 

 これら3つの項目については、施行日(2015年10月1日)を数ヶ月後に控えた今もなお、その解釈が明確にはなっていない。詳細は以下に述べるが、このまま40条の6が施行日を迎えれば、大きな混乱は避けられないものとなる。

 解釈が明確になり――ただし、その解釈は、多くの者が納得する「常識」に沿ったものでなければならない――、問題が解決するまでは、40条の6に始まる「労働契約申込みみなし」規定は施行しない。思うに、そうした決断が今、国会には求められている。

 

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<緊急寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん
派遣法の「労働契約申込みみなし制度」

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(2)なぜ労働契約の「申込みみなし」なのか(5月12日)

(3)「申込みみなし」の対象となる違法行為とは何か(5月13日)

(4)労働契約成立後の労働条件はどうなるのか(5月14日)

 

小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)等がある。『文部科学教育通信』に「続 国立大学法人と労働法」を、『週刊労働新聞』に「提言 これからの雇用・労働法制」をそれぞれ連載中。
 

 

 


 

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