精神障害者の雇用が急増している。障害者雇用促進法の改正によって、2018年度から精神障害者の雇用も義務化されることになったことから、それを先取りした動きとみられるが、精神障害者の労務管理は身体・知的障害者よりむずかしい面もあり、今後どこまで就労者が伸びて定着するかは未知数だ。(報道局)
厚生労働省が発表した2014年度「障害者の職業紹介状況等」では、ハローワークを経由した障害者の就職件数は8万4602件(前年度比8.6%増)となり、5年連続で過去最高を更新。求職申し込み件数の17万9222件に対する就職率は47.2%とこちらも過去最高。ハローワークがフル機能している感がある。
今回、最も注目されたのは精神障害者の急増。就職者を障害別にみると、精神が最多の3万4538件(同17.5%増)となり、身体の2万8175件(同0.5%減)、知的の1万8723件(同6.1%増)を大きく上回った=グラフ。
身体障害者はもともと就業者が圧倒的に多く、厚労省のハローワーク経由以外も合わせた「障害者雇用の状況」(14年6月1日時点)では、企業の雇用者数43.1万人のうち、身体障害者は31.3万人、知的障害者は9.0万人、精神障害者は2.8万人という内訳になっており、身体障害者が7割以上を占めている。
企業側にとって、障害者の雇用管理は身体、知的、精神の順にむずかしくなるとされ、それが雇用数にも反映されていた。ところが、13年4月から障害者の法定雇用率が企業は1.8%から2.0%に引き上げられたうえ、同法改正によって18年度から身体・知的障害者に加えて、精神障害者の雇用も義務化された。
これを審議していた労働政策審議会の障害者雇用分科会では、障害者側が法定雇用率のアップに合わせて精神障害者の雇用義務化も同時に実施するよう求めたが、雇用する企業が講じなければならない「合理的配慮」の内容を巡って、企業側が「準備不足」を理由に難色を示したため、5年の“猶予期間”を設けたいきさつがある。
しかし、企業側もこうした状況に対応するため、法定雇用率を達成するには採用が厳しくなっている身体障害者より、まだ“余裕”のある知的・精神障害者の雇用を増やし、猶予期間の間に達成を目指そうという思惑がうかがえる。
実際、ハローワーク経由の就職件数でも、身体障害者は一ケタ台の緩やかな伸び率が続き、14年度はマイナスになったのに対して、知的障害者は10年度以降は毎年1000人規模で増え続け、精神障害者はさらに急増。13年度に身体障害者をわずかに上回り、14年度は身体障害者の1.2倍、知的障害者の1.8倍の規模に膨らんだ。
精神障害は、統合失調症などで障害者手帳の保有者が対象になるが、身体・知的障害に比べると症状が不安定で、服薬や通院が必要な人も多いことなどから、採用に消極的な企業も少なくない。
しかし、企業の担当者が症状の特性などを理解し、相互の希望を話し合って適切な職種に就けば、健常者と変わらない仕事をしている人も多く、「企業はまず、精神障害という呼称から受ける偏見を取り払って欲しい」とハローワーク担当者は呼び掛けている。
障害者雇用に対する日本企業の姿勢はまだ消極的で、法定雇用率を達成している企業の比率は14年度で44.7%。毎年上昇し続けているとはいえ、まだ過半数の企業が未達成というのが実態だ。未達成企業はペナルティーとして「障害者雇用納付金」を納めるが、14年度は約237億円が見込まれている。とりわけ、納付義務がない小規模企業での雇用が遅れている。