「申込みみなし」の対象となる違法行為とは何か
4月24日付け文書は、「労働契約申込みみなし」規定の対象となる違法行為を次のように列挙する。先にみた派遣法40条の6第1項各号に該当する行為が、それである(号番号は小職による)。
○ 派遣労働者を禁止業務に従事させること(1号)
○ 無許可又は無届出の者から労働者派遣の役務の提供を受けること(2号)
○ 期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること(3号)
○ 労働者派遣法又は同法の規定により適用される労働基準法等の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、必要とされる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること(いわゆる偽装請負等)(4号)
今通常国会に提出されている派遣法改正案が成立すれば、特定労働者派遣事業の廃止に伴い、届出制が許可制に一本化されるため、2号の対象から「無届出の者」が外れるほか(ただし、条文の内容は変わらない)、3号にいう「期間制限」が、改正法では3号に規定する「事業所単位の期間制限」と4号に定める「個人単位の期間制限」に分かれ、現在の4号は、5号に繰り下げられることになる。
その結果、改正後の派遣法40条の6第1項3・4号は、その規定内容が次のようなものに変わる(下線部が変更箇所)。
三 第40条の2第1項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること(同条第4項に規定する意見の聴取の手続のうち厚生労働省令で定めるものが行われないことにより同条第1項の規定に違反することとなったときを除く。)。
四 第40条の3の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。
しかし、驚くべきことに、後述する偽装請負などの問題を除けば、4月24日付け文書には違法行為に関するこれ以上の説明がない。それは、各号に列挙された規定の解釈に関わる問題であって、40条の6それ自体の解釈に関わる問題ではない。厚労省はそう考えているようでもあるが、手抜きと批判されてもやむを得まい。
確かに、今回の派遣法改正が実現すれば、派遣先が「派遣法違反=違法行為」を理由として「労働契約の申込みをした」ものとみなされるリスクは、大幅に軽減される。事業所単位の期間制限にせよ、個人単位の期間制限にせよ、ある程度の注意を払えば、期間制限違反の問題は回避できるようになるからである。
当事者がいわゆる26業務の派遣と理解していたにもかかわらず、ある日突然、その実態は自由化業務であったとして、期間制限違反を問題にされる。そうした危険は、法改正により、ほぼなくなると考えてよい。
とはいえ、実務にミスはつきものであり、ミスのない現場など、実際には存在しない。許可事業者であるかどうかを確認しなかった(2号)といったケースは論外としても、派遣労働者を不注意により禁止業務に従事させてしまう(1号)可能性は、現在なお十分にある。
例えば、建設会社で事務をとる派遣スタッフが、仕事を急に休んだ従業員に代わって、たまたま「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業」またはその準備作業に従事したような場合や、郊外型店舗で店員として働く派遣スタッフが、駐車場における事故発生の防止のための業務に従事したというような場合も、1号に該当することは、意外に知られていない(詳しくは、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(適用除外業務の項)を参照)。
また、国会で現在審議中の派遣法改正案には、「新法第40条の2の規定は、施行日以後に締結される労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣について適用し、施行日前に締結された労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣については、なお従前の例による」と規定する定め(附則第9条1項)があり、当該労働者派遣契約に基づいて行われる労働者派遣の期間が、派遣法40条の6の施行日である15年10月1日以降の日を終期とする場合には、従来型の期間制限違反を理由に「労働契約の申込みみなし規定」が適用される(3号事案)可能性が依然として残る、という問題もある。
さらに、偽装請負など(4号事案、改正法施行後は5号事案)についても、4月24日付け文書は、せいぜいが「偽装請負等の目的の有無については個別具体的に判断されることとなるが、『免れる目的』を要件として明記した立法趣旨に鑑み、指揮命令等を行い偽装請負等の状態となったことのみをもって『偽装請負等の目的』を推定するものではない」と述べるものでしかない。
従来、偽装請負の問題は、派遣法40条の4に定める労働契約の申込み義務規定などとからめて、もっぱら期間制限違反の問題として論じられてきたが、40条の6は偽装請負そのものを「申込みみなし」規定が適用される違法行為の類型の一つとして定めていることから、期間の長短にかかわらず、今後は一発アウトになる可能性もある(現に請負などの契約形式がとられることの多い公共部門では、特に注意が必要となる。40条の7を併せ参照)。
いわゆる37号告示(昭和61年労働省告示第37号)の解釈・運用の現状を前提に考える(注)と、先にみた程度の記述では、気休めにもならない。それが現場の率直な感想といえよう。
結局のところ、4月24日付け文書からは、「申込みみなし」の対象となる違法行為とは何かが、まったくわからない。ありていにいって、こういわざるを得ないのである。
(注)小嶌『職場の法律は小説より奇なり』(講談社、09年)第11話「告示37号と派遣・請負の区分」を参照。
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小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)等がある。『文部科学教育通信』に「続 国立大学法人と労働法」を、『週刊労働新聞』に「提言 これからの雇用・労働法制」をそれぞれ連載中。