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2015年5月11日

<緊急寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

派遣法の「労働契約申込みみなし制度」(1)

実務現場を考慮しない厚労省の「行政解釈」

 2015年4月24日、労働政策審議会職業安定分科会の労働力需給制度部会に、厚生労働省は「労働契約申込みみなし制度について」と題する文書(以下「4月24日付け文書」という)を提出した。

is1505.jpg この文書は冒頭にもあるように、労働者派遣法40条の6に定める同制度の趣旨とその行政解釈を示したものであるが、これに先だって政府は3月27日、山井和則民主党衆議院議員の提出した「労働者派遣法における労働契約申込みみなし制度の施行に関する質問主意書」に対する答弁書において、既に「『労働契約申込みみなし制度』の施行に必要な法解釈等について、労働政策審議会に対し、早期に報告することを考えている」としていた。

 確かに、4月24日付け文書も述べるように、派遣法40条の6の規定は「民事的効力を有する規定であり、その効力が争われた場合については個別具体的に司法判断されるべきもの」であって、たとえ行政解釈が示されたとしても、それは裁判所の判断に多少影響を与えるというにとどまり、判断そのものを拘束するものではない。

 他方、一定の場合に労働契約を申し込んだものとみなされる派遣先にとって、同制度がどのように解釈運用されるのかは、当然のことながら大きな関心事となる。いかなる点に注意を払えば、40条の6の適用を回避することができるのか。実務における最も大きな関心事が、ここにあることはいうまでもない。

 とはいえ、4月24日付け文書が、このような実務上の関心に答えるものとなっているかというと、少なからず疑問符が付く。難解というよりは、実務が関心をいだく肝心の問題に、そもそも答えるものとなっていない。率直にいって、そうした印象を免れないものとなっている。

 派遣労働者が承諾の意思表示をすることによって、労働契約が派遣労働者と派遣先との間に成立した後には、労働契約法などが等しく適用される(適用除外を認めた規定がない)ことから、このことをどう考えるべきかという、答えることが必ずしも容易ではない問題もある。以下では、そうした難問についても、併せて考えてみたい。

 

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小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)等がある。『文部科学教育通信』に「続 国立大学法人と労働法」を、『週刊労働新聞』に「提言 これからの雇用・労働法制」をそれぞれ連載中。

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