今年の春闘は、昨年を上回る賃上げが広範囲に波及している模様だ。安倍政権の目指す「経済の好循環」を実現するには、昨年4月の消費増税で落ち込んだ個人消費の回復が必至なだけに、今年は政府、経済界、労働側ともに「賃上げ賛成」という異例の展開となった。とりわけ、今年はこれまで“蚊帳の外”に置かれていた中小企業や非正規社員にも賃上げの波がどの程度及ぶか注目されていたが、ようやく波及効果が出始めたとみられる。(報道局)
春闘は転換期を迎えている?
連合が2日に発表した3月末時点の回答集計によると、正社員では2003労組が回答を引き出し、その平均額(加重平均)は6944円(前年比2.33%増)となり、昨年の回答額を449円、0.13ポイント上回った。企業規模別では、従業員300人以上の787労組が平均7084円(同2.35%増)、300人未満の1216労組が5185円(同2.08%増)だった。
これに対して、非正規社員の場合は、回答155労組の平均賃上げ額は時給ベース(加重平均)で18.17円上がり、927.65円となった。月給ベースでは110労組で4237円(同2.11%増)となった。
これまでのところ、正社員も非正規社員も総じて昨年を上回る賃上げ額を獲得しており、「すべての労働者の底上げ」を目標にしてきた連合の古賀伸明会長は、「例年以上に多くの組合が昨年を上回る回答を引き出し、賃上げの広がりと交渉の加速の両面を成し遂げることができた」と述べ、「継続的な賃上げの道筋を付けつつある」と自信を深めた。
注目すべきは、2月まで22カ連続のマイナスが続いている実質賃金だ。実質賃金のマイナスは、給与の伸びを物価上昇の伸びが上回っていることで、サラリーマンの生活水準が向上していないという意味。昨年4月の消費税率の3%アップで物価上昇が加速し、賃金の伸びを上回ったことから、消費活動は大幅にダウンした。
政府は今年10月に予定していた第2弾の税率2%アップを、2017年4月に延期せざるを得ない状況に追い込まれた。第2弾の税率アップが消費活動に影響を及ぼさないようにするには、今年の春闘で大幅な賃金アップを実現しなければならない。政労使会議で、政府が経済界に賃上げを繰り返し要請した理由もここにあった。
グラフからわかるように、実質賃金のマイナス幅は消費増税時の3%台から、昨年秋ごろから2%台に縮小している。4月からは消費増税の効果が一巡することから、消費者物価指数の伸びは縮小が予想される。加えて、今春闘の大幅賃上げによって名目賃金が大きく伸び、実質賃金もようやくプラス転換する期待感が高まっている。
株価は好感しているが……
好調な企業業績と賃上げの広がりを好感し、株式市場は10日、景気の持続拡大を予想して日経平均株価が15年ぶりに2万円の大台を取引途中に回復した。実質賃金のプラス転換がデフレ脱却の“集大成”とみられているだけに、株価もそれを織り込みつつある。
ただ、本来なら労使で決めるべき春闘の賃上げ交渉に政府が介入する構図には批判的な意見も多く、バブル崩壊以降、ほぼ一貫して交渉力を落としている労働組合は存在理由を問われかねない立場に立たされている。戦後日本の「春の風物詩」になっていた春闘は、大きな転換期に差し掛かっているようだ。
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