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2015年1月 5日

「正社員改革」の契機になるか

新たな労働時間制度めぐる法改正

 政府が目指している「新たな労働時間制度」の導入は実現するか――。具体的には「労働時間によらず、成果に応じて賃金が支払われる制度」だが、これをめぐって企業側と労働者側の意見は真っ向から対立しており、導入に向けた道筋はまだ見えていない。この問題、日本の会社員の長時間労働の是正とセットになっている、いわば「正社員改革」の突破口と位置付けられる。日本の労働制度を根本的に変える起爆剤になるかどうか、今年最大のテーマになる可能性をはらんでいる。(報道局)

 「成果型」制度は、企業の生産性を上げるため、昨年6月に政府が出した「日本再興戦略改訂2014」の中に盛り込まれたもので、(1)一定の年収要件(例えば1000万円以上)、(2)職務の範囲が明確で、高度な職業能力を持つ労働者が対象。具体的な職種として、証券会社や銀行のディーラー、IT系のシステムエンジニア、製薬会社の研究開発やMRなどを想定している。

 安倍首相自ら、昨年の国会答弁などで、導入に際しては(1)希望しない人には適用しない、(2)年収は下げない、(3)対象となる人材を絞り込む――などの前提を明言した。要するに、これらの職種のサラリーマンは成果を出せば出退勤も労働時間も自由な代わりに、深夜残業や休日出勤などの手当ては出ない。「労働時間」という概念自体がなくなるわけだから、その意味では労組などが批判する「残業代ゼロ」にはなる。

 実はこうした働き方をしているサラリーマンは、企業の管理職をはじめ、年俸制で働いている人を中心に、すでにかなりの数に上るとみられており、労働時間の“縛り”は無意味になっている。新制度はそれを法的な枠組みとして認知しようというものだ。

is150105.png 日本の場合、労働基準法で労働時間を「1日8時間、週40時間」の上限を設けているものの、同法36条では労使で合意すれば残業を認める例外措置(いわゆる「三六(さぶろく)協定」を認めているため、それが拡大解釈されてサービス残業が後を絶たない“残業大国”となり、近年はブラック企業の温床にもなっている。日本のホワイトカラーの生産性が国際的に低い要因の一つでもある。

 このため労基法を改正して長時間労働を是正する一方、時間で仕事をしているわけではないサラリーマンには労働時間の規制を取り払って、生活との調和を図ってもらい、生産性を向上させるのが成果型導入の本来の狙いだ。ダラダラ残業が日常生活になり、残業代が生活費に組み込まれている正社員サラリーマンにとっては、仕事の生産性、効率性が本格的に問われることになる。

当事者意識は?迫られる「労政審改革」

 しかし、厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会(岩村正彦分科会長)では、企業側は賛成、労働者側は反対のまま最後まで平行線をたどった。労使の主張を要約すると、以下のようになる。

【企業側】
・個々の意欲と能力を発揮して生産性を高め、国際競争力をつけるには、新たな制度を選択肢として示すことが必要。
・一部業務に限定することなく、研究職や技術職、さらに高い付加価値を生むソリューション型職種も含む、幅広い枠組みにすべき。
・時間外、深夜、休日の原則を適用しないことが適当。現行では評価査定とは別に、労働時間に応じて賃金が上乗せされる不合理もある。
【労働者側】
・国際的にみて長い日本の労働時間の短縮を図るのが先決であり、成果型は長時間労働を助長する。
・年収要件には合理的な理由を見出せず、今後、引き下げられる懸念が大きい。
・労働時間と成果のリンクを切る手法は、労働時間制度でなく各社の人事処遇制度やマネジメントを工夫すれば可能なはず。

 経営者側は、これを突破口に制度の適用対象者を増やそうとする姿勢をチラつかせているのに対して、労働者側もこれが「アリの一穴」になる懸念を強めて導入自体に反対するなど、労使ともに本来の目的である生産性の向上よりも、本音は別なところにあることをうかがわせる。

 このため議論は最後までかみ合わず、規制改革会議や再興戦略から「具体的には労政審で検討、結論を得る」とボールを投げられたにもかかわらず、労使の歩み寄りはないまま終わり、結局は事務局による「折衷案」待ちの状態になった。

 労政審はILO(国際労働機関)による「公労使による三者協議の原則」で運営される場であるにもかかわらず、労使は自らの主張に終始し、有識者の公益委員はほとんど発言せず調整機能を果たさないという、当事者意識の薄い会議に堕している。同分科会に限らず、最後は立法府である国会の「政治闘争・決着」に過度に注力するならば、労政審の存在意義が問われかねない。また、日本の雇用慣行や職種のボリュームゾーンの変化に対応できないまま、長きにわたり一定の団体から委員が選出されている“指定席状態”や構成なども含め、労働時間法制以上にまずは「労政審改革」が必要、との声が強まりそうだ。

 

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