企業におけるワーク・ライフ・バランス(WLB)の推進と働き方などに関する調査研究を展開している「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト」(代表・佐藤博樹中央大大学院教授)が11月末、「管理職の重要性と育成のあり方に関する提言」を発表した。同プロジェクトは、民間企業と研究者が共同で取り組む先駆的な活動として2008年秋に発足。研究成果として毎年公表している調査結果概要と提言は、政府やマスコミの政策文書にも取り上げられるなど、最近の「働き方を見直す」という流れをけん引している。今回の提言を中心に、同プロジェクトとその活動について紹介する。(報道局)
今春から拠点を東大から中央大へ、目的と活動は継続
同プロジェクトは08年10月、東京大学社会科学研究所の佐藤教授(当時)を代表に「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」としてスタート。今春から拠点を中央大大学院の戦略経営研究科(ビジネススクール)に移し、これを機に名称を「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト」に変更した。
発足当初から目的は、(1)日本におけるWLB
推進・研究拠点の形成、(2)産業界や個別企業に対するWLB支援の必要性、取り組み方法、企業経営および人材活用への効果と影響などに関する情報提供、(3)参加企業のWLB推進に関する「モデル事業」(管理職の意識啓発、働き方の改革、両立支援制度が活用できる職場作り、両立支援制度と人事処遇制度のリンクなど)の実施、(4)WLB支援に関する海外の研究機関および普及促進機関との連携、(5)研究成果を踏まえ、WLB 支援を普及・推進し、その理念を定着させるための政策提言活動――の5点を柱に据えている。14年度は18社が参加している。同プロジェクトの研究期間は立ち上げの助走を含む08年10月から11年3月までを第Ⅰ期。同年4月から3年間を第Ⅱ期。今年の4月から17年3月までを第Ⅲ期と位置づけており、今年度は新たなフェーズ(段階)に入っている。発足以来の調査研究の蓄積や進展状況に加え、「研究者と民間企業(現場)」が参画しているという特性を生かして、「働き方に関する世論の意識の高まりや変化」を敏感にとらえた情報提供にも注力している。
「WLB
管理職」の定義と、経営に不可欠な理由など示す第Ⅲ期で最初の提言となった「ワーク・ライフ・バランス管理職の重要性と育成のあり方に関する提言」では、部下のWLB
を支援する「WLB 管理職」の定義を明確化し、そうした存在が企業経営に不可欠であることを強調。さらに、WLB 管理職を増やすための企業の取り組みなどについて、調査概要を踏まえて明快に提言をまとめている。提言によると、まず「WLB
管理職」の定義について、「部下の働きを通じて組織から自己に課せられた課題を遂行する人」と整理。その役割として、①組織から自己に課せられた課題を遂行するために必要な業務計画を立案し、業務計画に基づいて各業務を部下に割り振ること(業務マネジメント)、②部下が各業務を円滑に遂行できるように支援すること(部下マネジメント)――に集約している。
そのうえで、「WLB
(1)「WLB 管理職」はこれからの企業経営に必要不可欠~部下のWLB 支援を通じて仕事への意欲を高め、組織成果をあげる~
(2)「WLB管理職」にはイクメンでなくてもなれる~環境変化に応じてマネジメントのあり方を柔軟に変えられることが重要~
(3)「WLB管理職」は企業の組織的な取り組みで増やすことができる~研修・評価などを通じ管理職の行動変容・組織文化の変革を起こすことが鍵~
成果報告会は満席、企業などの関心の高さ反映
同プロジェクトでは、専用のホームページを活用した調査概要や提言の公表と連動し、公開の成果報告会も開催している。6回目となる今年の報告会は提言発表の2週間ほど前となる11月18日に、都内の中央大駿河台記念館で開かれた=写真。会場は、企業の人事やダイバーシティー・マネジメント担当者、自治体の女性活躍やWLBなど企業支援担当者ら約400人の参加者で埋め尽くされ、プロジェクトの内容と方向性に対する関心の高さをうかがわせた。
この日は、第一部の分科会と第二部のパネルディスカッションを開催。分科会は「女性の活躍の拡大と管理職」、「介護経験者の事例から紐解く~企業と管理職による両立支援のあり方~」、「働き方改革と管理職~事例から学ぶ管理職の果たす働き方改革への役割~」、「ワーク・ライフ・バランス管理職をいかに増やすか」――の4つに分かれ、それぞれ有識者らで構成する今年度のプロジェクト研究メンバーを進行役に、現場実態に照らした課題の掘り下げ、打開策などについて活発に議論した。
また、第二部のパネルディスカッションは、「人材の多様化時代における職場マネジメントの課題」をテーマに討論。武石恵美子・法政大キャリアデザイン学部教授を司会に、佐藤教授と小室淑恵・ワーク・ライフバランス社社長、松浦民恵・ニッセイ基礎研究所主任研究員、矢島洋子・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の4人がパネラーを務めた。
ディスカッションに入る前に、第一部の分科会で進行役も担ったパネラーがそれぞれ議論した内容の要約報告を行ったほか、分科会に参加した民間企業の参加者によるショートスピーチが披露され、「自社の特性や社風なども考えて円滑な実践に向けて工夫したい」、「異業種の担当者の人たちの意見や交流に価値があった」などと発表。双方向的な運営と企画が会場全体の一体感を高め、引き続き展開されたパネルディスカッションの意見交換や提案などの議論が深まった。