安倍晋三首相は19日にも衆議院を解散する見通しだ。これに伴い、政府が秋の臨時国会で成立を期していた労働者派遣法改正案は、先の通常国会に続いて廃案が確定的。12月の総選挙で与党が過半数を維持し、年明けの通常国会に出し直すとしても、法案に記された施行期日の「来年4月」を先延ばしする書き換えが必要で、これが現時点において自由化業務で従事している派遣社員に与える影響は大きい。派遣法を巡る今年の主な動きを振り返る。(報道局)
労働者派遣法改正案は、現行法である「平成24年改正」の成立時(民主、自民、公明の3党合意)の付帯決議を基に、相応の手順を踏んで策定されたものだ。民主党政権下で現行法が施行された2012年10月に、厚生労働省が有識者会議「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」を設置。翌13年8月まで計16回にわたって派遣制度全体の課題を幅広く議論し、「報告書」をまとめた。この間、12年12月の総選挙で、政権は民主から自民・公明へ交代した。
その「報告書」を事実上のたたき台に、直後の同8月末から労働政策審議会職業安定分科会・労働力需給制度部会がスタートし、労政審ではあまり例のない越年審議を経て、計13回の会合の末に今年1月に建議(答申)した。こうした経過を押さえたうえで、今年の二転三転した動きを時系列で整理する。
通常国会閉幕までの記録
【2014年1月】
24日=第186回通常国会召集、会期は6月22日までの150日間。
29日=労政審需給制度部会が13回目の会合を開き、建議。翌30日に上部組織の職業安定分科会で了承され、日程的にぎりぎりのタイミングで国会提出にめどがつく。
【2月】
21日=需給制度部会は、建議を受けて厚労省が作成した労働者派遣法の改正案要綱を審議。建議と要綱の「整合性」について労働者側委員の指摘があり、答申は次回に持ち越し。
27日=需給制度部会が派遣法案の要綱を「概ね妥当」と答申。労使のさらなる指摘や注文は「なお書き」に盛られた。翌28日に職業安定分科会で正式に厚労相に答申。
【3月】
11日=政府が派遣法改正案を閣議決定し、即日、国会に提出。
【4月】
1日=厚労省が職業安定局派遣・有期労働対策部に「民間人材サービス推進室」を新設。良質な民間事業者の育成支援、活用などが目的。
25日=改正案の経過措置にかかわる条文に、形式的な誤記があったことをアドバンスニュースと放送1社が報じる。
26日=連合主催のメーデーが東京・代々木公園などで開かれ、自民党の首相として13年ぶりに安倍首相が来賓として出席。連合は「労働法制の改悪阻止」を掲げ、特別決議した。
【5月】
9日=法案の誤記をめぐり、野党7党が再提出を要求。正誤表の添付で対応を模索する政府・与党に野党が反発し、審議入りのめどが立たない状況に。
【6月】
20日=改正案の取り扱いについて、衆院議院運営委員会は「審議未了のまま処理」という「廃案」の措置を取ることを決めた。ただ、政府・与党の対応は、法案自体を完全に引っ込める一般的な「廃案」とは異なり、問題となった条文の誤記部分を修正し、秋の臨時国会に「新たな法案」として提出するもの。
通常国会の厚労省関係の政府提出法案11本のうち、審議入りできなかったのは派遣法改正案のみ。
臨時国会終盤の「断念」までの記録
【9月】
3日=第2次安倍改造内閣が発足。厚労相は1年8カ月務めた田村憲久衆院議員に代わり、塩崎恭久元官房長官が就任。
29日=第187臨時国会を召集。同日、誤記を修正した派遣法改正案を閣議決定し、衆院に提出。
【10月】
16日=改正案について、全野党が反対で一枚岩となる「野党共闘」に至らないことが判明。政府・与党は23日から審議入りする方針を固める。
17日=連合が改正案の成立阻止に向けた緊急行動について、具体的な日程を盛り込み中央執行委員会で決める。
20日=23日の審議入りを模索していたものの、重要閣僚の小渕優子経済産業相と松島みどり法相が相次いで辞任した余波を受け、28日にずれ込む。
28日=衆院本会議で審議入り。塩崎厚労相の趣旨説明に続き、与野党8会派の代表がそれぞれの視点から質問、政府の見解をただした。実質審議を衆院厚生労働委員会に付託。
29日=衆院厚労委で趣旨説明。31日からの“集中審議”を与野党理事間で合意。
31日=予定されていた衆院厚労委が流会。開会前の同理事会で与党・公明が準備していた付帯決議案に近い内容の「一部修正案骨子」の存在をめぐって紛糾。強行に反対する野党に一定の理解を得ようと策定準備していたものだが、逆に流会の原因に。
【11月】
5日=自民・公明両党の幹事長が派遣法改正案について、会期内成立に向けた日程感について確認。また、渡辺博道委員長の職権で厚労委が開かれ、与野党8会派の委員が審議を進めた。
7日=再び渡辺委員長の職権で厚労委が開かれ、安倍首相が出席して質疑を行った。しかし、法案自体に反対の民主や共産など野党4党に加え、与党の進行や5日の同委員会における塩崎厚労相の答弁の一部に不満を持つ他の野党も「同調」する形で一斉に反発。終日、野党が審議拒否し、与党単独で審議。
9日=安倍首相が3カ国の外遊に発つ。17日まで。
11日=政府・与党は夜、12日に予定していた厚労委を開催しないことを野党側に伝える。この日に採決まで持ち込む方針を固めていたが、「強気」から一転して「大きく後退」。衆院解散による廃案も強まった。
12日=安倍首相が外遊から帰国後の19日前後に、衆議院を解散する意向が明確に。これに伴い、改正案の廃案が確定。12月の総選挙で過半数を得た場合、年明けの通常国会に「再々提出」する見通しだ。
【関連記事】
12日の派遣法改正案の採決断念、政府・与党
今国会成立は見送りか、解散による廃案(11月11日)
労働者派遣法改正案、国会提出までの記録―①
「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の経過(1) (3月17日)
労働者派遣法改正案、国会提出までの記録―②
「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の経過(2) (3月19日)
労働者派遣法改正案、国会提出までの記録―③
「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の経過(3) (3月21日)
労働者派遣法改正案、国会提出までの記録―④
「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の経過(4) (3月23日)
労働者派遣法改正案、国会提出までの記録―⑤
「労働政策審議会・労働力需給制度部会」の経過(1) (3月25日)