超高齢社会に突入した日本にとって、高齢者が元気で仕事を続けられるかどうかが大きなカギになる。高齢者の雇用創出を手掛ける人材派遣の「マイスター60」(東京都品川区、三宮幸一社長)は昨年、「シニア・インターンシップ」と呼ぶ研修システムを試験実施した。責任者の高平ゆかり・取締役シニアビジネス事業部長に狙いを聞いた。(報道局)
―― 「シニア・インターンシップ」の概要を説明してください。
高平 一言で言うと、高齢社員の意識改革を狙った体験型研修プログラムです。定年退職などに伴い、再雇用や転職を希望している人に、当社社員と一緒に現場の仕事を体験していただき、気づきに繋げる何かを感じてもらうことが狙いです。
昨年秋に半年ほどかけて試験実施したもので、大手精密機器メーカーなどの在職者3人にご参加いただきました。具体的には、2泊3日の合宿でキックオフミーティング、異世代との文化交流、農業体験、高齢求職者の面接体験、成果報告会などを用意しました。座学で16時間、実習体験なども加えると延べ300時間を超える長期研修です。
ベテランの方々はどうしても出身企業や肩書、学歴などにこだわりがちなので、キックオフではそれらを一切使わず、お互いにハンドルネームで呼び合います。それでも、和気あいあいとしたつながりができて盛り上がりました。普段、いかに先入観や決め付けに縛られているか、ご理解いただいたようです。
―― 異世代交流ではメイドカフェの若手女性たちに協力してもらったとか。
高平 日頃は接したことのない「秋葉原文化」に触れていただこうと思い、アルバイト2人に来てもらって、「“キャラ萌え”ってわかりますか」などの“難問”を出し=写真、人気アニメ「ヘタリア」も鑑賞しました。また、デジタルハリウッド大学の学生さんにはデジタルコンテンツの世界を語ってもらったり、フェイスブック講座の指導をお願いしました。孫のような世代から教えてもらうことは新鮮だったらしく、大好評でした。
参加者からは、研修全体について「“笑顔=いい顔”の自分になれた」、「固定観念・先入観はダメ」、「自分が変わらなければ相手も変わらない」などの感想をいただき、みなさん、大きな収穫を得ていただいたものと確信を持てました。今年からは事業化に向けて検討しています。
「扱いにくいシニア」からの脱皮を
―― シニア世代の就労問題は、社会的に大きな課題になっています。
高平 当社は創業以来、5500人を超える高齢者雇用を創出してきており、従来は60歳以上の人たちの相談が中心でしたが、昨年の高年齢者雇用安定法の改正前後から50代の方々の相談が増えています。65歳まで会社で働けるようになった半面、その前に転職など他の選択肢も探したいという気持ちの表れではないかと思います。
ただ、長年の会社生活の中で「職業能力の格差」が生じるのは間違いない事実で、これがマイナスに向かうと就業意欲やモラルの低下、謙虚さに欠ける、現実を受け入れない頑なさ、自己防衛・自尊心の優先など、企業側にとってシニア社員の扱いにくさにつながるわけです。
当社としては、こうした両者のギャップをできるだけ小さくすることで、定年世代の再戦力化を図る機能や仕組み作りを開発しており、シニア・インターンシップもその一環です。私自身、シニアの方々と接することで非常に多くのものを学んでいます。シニアの雇用創出こそ、今後の日本の諸問題を解決する有効な手段になる。それを確信しています。
高平 ゆかり氏(たかひら・ゆかり)1957年、東京都出身。06年、産業能率大学大学院経営情報学研究科修了(MBA)。86年、商社系人材派遣会社「メイツ(旧エム・シー・メイツ)」に入社。95年、社内の高齢特例派遣事業「シニアビジネスセンター」に従事。2011年8月、マイスター60入社。マイスター60は1990年創業。「年齢は背番号 人生に定年なし」を掲げ、今年3月までに延べ5500人の雇用を創出。売上高は11億3000万円(14年3月期)。