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2014年10月 6日

水田正道・日本人材派遣協会長に聞く

「安心を基本に業界全体のさらなる質的向上を」

 日本人材派遣協会の水田正道会長(テンプスタッフ社長)は、アドバンスニュースのインタビューに応じ、労働者派遣法の抜本改正を契機に、「派遣社員に安心して働いてもらえるよう一層の環境整備に努める」と強調。全国の協会加盟企業と力を合わせて業界をけん引する姿勢を示した。(聞き手・大野博司=報道局長、労政ジャーナリスト)

―― 6月の協会長就任時に、協会の目標として(1)派遣社員の雇用の安定(2)労働市場のミスマッチの極小化(3)女性就労の多様化への対応――の3本柱を会員企業に呼び掛けました。その狙いを聞かせてください。

is1401006.jpg水田 協会加盟の人材派遣会社であれば、派遣社員は安心して働けるという基本線を強化したいと考えているからです。派遣社員と派遣先企業の間に立ち、両者の希望に沿った最適なマッチングをして、両者を丁寧にフォローし続ける。これは派遣事業の原点と存在価値の追求を目指している派遣元でなければできないことです。

 また、家庭の事情などさまざまな理由で制約を抱えている人であっても、可能な就労場所を開拓し提供していくことも派遣会社の重要な役割だと思います。つい最近、約5年間の就労ブランクのあった派遣社員の方とお話しする機会があり、「ブランクから生じる精神的不安を抱いていましたが派遣会社の担当者さんが『不安を抱えているのはみなさん一緒ですよ。特別なことではないのです』などと、派遣先との間に立つだけでなく常に精神面におけるバックアップもしてくれました。そのおかげで、働き続けることができました」と。そして、「この心の支えが何よりの私のキャリアアップにつながりました」とおっしゃってくださいました。

 こうした派遣社員に寄り添ったキメ細かい対応を通じて、女性の多様な就労を支える。会長就任時の呼びかけには、「協会加盟企業なら、それがきちんとできる。その価値を社会全体に認めてもらえるように一層努めていこう」というメッセージでした。端的に言えば「信頼性の向上」、これに尽きます。

派遣法改正案は「分かりやすさ」の面で前進

―― 現行法の施行から2年余り。抜本改正となる労働者派遣法改正案が、開会中の臨時国会での成立を目指して動き出しました。

水田 協会としても、これまで「早期の成立を」と繰り返し要望してきた法改正ですので、審議の行方を注視したいと思います。今回の改正法案はいわゆる「政令26業務」と「自由化業務」の区分を撤廃するなど、画期的な内容が多く盛り込まれています。制定から来年で30年。改正に次ぐ改正で“迷路”のように複雑になってしまった派遣法を、簡素でわかりやすい内容に一新している点は大きな前進だと思います。

 つまり、業界、我々事業者にとって都合よく改正された訳ではありません。むしろ、新たに事業者に義務化された項目などを見ると、非常に厳しい内容になっています。派遣期間の上限を一律3年にしましたが、その後は派遣先の無期雇用となる、社会通念上極端な違いのない別な派遣先を探す、派遣元で無期雇用にするといった選択肢を提供し、それにともなうフォローが派遣元に義務化されます。

 派遣社員の雇用安定やキャリア形成支援のためには必要な措置ですが、いわゆる登録型派遣を主流にしている派遣会社の収益構造には重くのしかかる責務です。各社はこれまで以上に、派遣社員の希望に沿った就業機会の創出に努めなければならないでしょう。人材サービスに対する理念や姿勢が問われるという意味でも、大きな変革を迎える「正念場」ではないでしょうか。決して簡単なことではありませんが、このような責務に正面から向き合い、取り組みを進めていくことこそ、労働市場の社会インフラの役割を担う業界、存在に進化していく道だと認識しています。

―― 法改正とは別ですが、並行するように協会も加盟する人材サービス産業協議会(JHR、5団体加盟)が厚生労働省の委託事業として優良事業者の「認定制度」を今年度下半期からスタートと聞いています。

水田 派遣社員や社会からの信頼性を上げていくには、法律だけではやはり限界があります。業界の自助努力の姿勢を証明する「安心・安全」マークです。働く人と派遣先企業が、このマークを付けている派遣会社を優先的に活用していただくような位置付けにまで持って行きたいと思っています。政府の目指す「失業なき労働移動」に資する公共性の高い業界として、さらなる底上げ、業界の質向上を図るという狙いもあります。

―― 今春、厚労省に「民間人材サービス推進室」が設置されるなど、官民挙げての動きが活発化しています。一方で、そうした努力にもかかわらず、一部の大手メディアなどは今も「派遣」という働き方そのものに否定的な見方をしています。

水田  今後の日本の労働市場を考えると、女性の就業率向上、高齢者の社会参加など多様な働き方を支援することが重要だと考えています。官民双方が持つノウハウを持ち合い、これまでとは異なる労働市場の在り方を考え、取り組んでいくことが社会から求められていると思います。もちろん、人材派遣サービスもこうした社会からの要請に応える存在でなければなりません。

 そのためにも、業界として正すべきところはしっかりと正し、社会に理解をしていただける取組みを継続していきたいと考えています。 



水田 正道氏(みずた・まさみち)1959年、東京都出身。84年リクルート入社。88年退社、テンプスタッフに入社。営業畑を中心に歩き、95年取締役。2006年常務、10年テンプホールディングス副社長、13年社長。14年6月に日本人材派遣協会長に就任。趣味はサイクリングと読書。座右の銘は二宮尊徳の「積小為大」。
 

【一般社団法人 日本人材派遣協会】1984年に8社で結成した日本事務処理サービス協会が前身。派遣法施行の86年に(当時の)労働大臣許可「社団法人日本事務処理サービス協会」を設立。94年にCiett〈国際人材派遣事業団体連合〉に加盟。96年に「社団法人日本人材派遣協会」に変更。2012年に一般社団法人として活動。協会会員企業数は557社、全国のシェア率で約40%(14年10月現在)を占める。

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