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2014年8月28日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

図表でみる「非正規」雇用の世界~総務省「労働力調査」(詳細集計)からわかること~(下)

高齢者の「非正規」雇用――男女で異なる増加要因

is140825.jpg 「非正規」雇用の内訳は、男女間で著しく相違する。

 女性の場合、「パート」の比重がきわめて高い(12年現在、63.5%、792万人)ことにその特徴があるが、男性の場合、「パート」の比重は概して低く(同、17.1%、97万人)、「契約社員・嘱託」の比重が比較的高い(同、34.8%、197万人)ことが特徴となっている(図4を参照)。

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 このような傾向は、高齢者についても等しくみられ、女性の場合には「パート」の増加が、男性の場合には「契約社員・嘱託」の増加が、それぞれ全体としての「非正規」雇用の増加に大きく寄与するものとなっている(図5-1および図5-2を参照)。

図5-1 「非正規」雇用者の雇用形態――高齢女性

図5-2 「非正規」雇用者の雇用形態――高齢男性

 女性の場合、「パート」はそのまま「パート」を続け、男性の場合、定年退職後の職員・従業員が「嘱託」等の形で、会社に再雇用される。こうした事情がその背景にはあるものと考えられる。

 なお、中年女性についても、「契約社員・嘱託」として働く者がわずかながら増える傾向にあるとはいえ、もともと人数という点で圧倒的に勝る「パート」との差を埋めるものとはなっていない(図6を参照)。

図6 「非正規」雇用者の雇用形態――中年女性

まとめにかえて

 景気がよくなれば、「非正規」雇用は自ずと減少する。そう考えている人は実際に多い。有効求人倍率が1倍を超え、求人難が叫ばれる今日、「正規」雇用が増え、「非正規」雇用が減るのは“理屈の上では”自然の流れともいえる。

 しかし、仮に中年女性や高齢者が「非正規」雇用の主役だとすれば、物事はそう簡単には進まない。年収を103万円(130万円)以内に抑えるためには、就業調整さえ辞さない主婦パート。定年後、嘱託として会社に再雇用された従業員。このような者を「正規化」することは、想像するまでもなく難しい。そして、「非正規」の中年女性や高齢者は、今後とも増え続ける可能性が高い。

 確かに、アルバイト等として働く「非正規」の若者(15~24歳)は、現在も200万人を超える(図2を参照)。だが、その半数は「在学中」の身であり、「正規化」を考えることにそもそも意味がない(別表を参照)。

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 「非正規」雇用の現状に問題がないといっているのではない。ただ、事実は事実として正確に伝える必要がある。小論の狙いも、これに尽きるといってよい。 (おわり)

  

小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年、大阪市生まれ。75年に神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第1次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与などとして雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作は『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社、近刊)など。
 

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