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2014年8月25日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

図表でみる「非正規」雇用の世界~総務省「労働力調査」(詳細集計)からわかること~(上)

はじめに――もう一つの「労働力調査」

is140825.jpg 総務省の「労働力調査」には、「基本集計」と「詳細集計」の2種類がある。このうち「基本集計」については、昨年3月と4月、7月にこの「インタビュー&スペシャル」の欄に寄稿したが(注1)、今回は「詳細集計」について取り上げてみたい。「詳細集計」がスタートしたのは2002年。以後、「詳細集計」は四半期ごとに「雇用者」(役員を除く。以下同じ)の雇用形態別データを提供する、貴重なツールとなる。

 その前身である「労働力調査(特別調査)」と同様、「雇用者」は、職場における呼称に基づいて、次のように分類される(注2)。 

正規の職員・従業員
非正規の職員・従業員
  パート・アルバイト(パートとアルバイトに細区分)
  労働者派遣事業所の派遣社員
  契約社員・嘱託(注3)
  その他

 
 13年以降、「基本集計」においても、同様のデータが得られるようになったが、経年的な変化は、一定年数の蓄積がなければ、わからない。今回、「詳細集計」を題材とした理由もここにある。

 なお、以下では、昨年この欄で取り上げた「就業構造基本調査」(注4)との比較を可能にするため、同調査の調査年である02年、07年および12年における「詳細集計」データをもとに分析を行うこととした。

「非正規」雇用の増加とその要因――中年女性と高齢者が主役

 02年から12年までの10年間に、「非正規の職員・従業員」数は、1451万人から1813万人へと、362万人の増加を記録する。この間、「正規の職員・従業員」数は、3489万人から3340万人へと、逆に149万人の減少をみた。こういえば、「正規」雇用から「非正規」雇用への代替が進んだようにみえるが、事はそう単純ではない。

 確かに、男性についてみると、この10年間における「正規」雇用の減少数と「非正規」雇用の増加数は、前者が137万人の減、後者が136万人の増と、見事なまでに一致する。しかし、「正規」から「非正規」への代替があったといえるのは、「雇用者」の構成に変化がない場合に、当然のことながら、限られる。

 他方、女性については、この10年間に「正規」雇用者の数に大きな変化はなかった(11万人の減少)ものの、「非正規」雇用者の数が激増している(226万人の増加)という事実がある。雇用者の増加を「非正規」雇用がほぼ吸収した。このようにいうことは間違いではないが、この10年間における雇用者の増加が、もっぱら女性雇用者の増加によるものであったこと(注5)に、むしろ着目すべきであろう(以上、図1を参照)。

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 12年現在、「非正規の職員・従業員」数が100万人を超える年齢階層は、5歳区分(注6)でみて、男性の場合、「60~64歳」層に限られるが、女性の場合には、30歳から64歳までのすべての年齢階層において、100万人を上回っていることが注目される。この10年間における「非正規」雇用の増加数が最も大きかったのは、男女いずれの場合も「60~64歳」層となっている(なお、「65歳以上」層も、男女ともに、この間一貫して増加傾向にあった)が、女性の場合、35歳から49歳までの年齢層においても大きな伸びを示すものとなっている(以上、図2を参照)。中年女性と高齢者が「非正規」雇用の主役。そういっても誤りではないのである。

図2 「非正規」雇用者の年齢階級別構成(2002年~12年)

 なるほど、一口に10年とはいっても、前半(02年~07年)と後半(07年~12年)では、トレンドがかなり異なる(図3-1および図3-2を参照)。「非正規」雇用の増加は、前半にほぼ集中しており、男性の場合、「60歳以上」の高齢者を除けば、後半における目立った増加は認められない。

図3-1 「非正規」雇用者数の増減(2002年~07年)

図3-2 「非正規」雇用者数の増減(2007年~12年)  

 後半における「60~64歳」層が団塊の世代(1947年~49年の3年間に生まれた世代)と重なることを考えれば、次の5年(12年~17年)には、「60~64歳」層の「非正規」雇用者数は、むしろ減少する可能性さえある。ただ、団塊の世代が「65歳以上」になっても、なお働き続けるとすれば、「非正規」雇用の主役が今後とも大きく変わることはない。こうもいうことができよう。 (つづく)

 

注1:小嶌「総務省の労働力調査からわかること ~ 非正規の実像伝えない『平均値』」(13年3月25日4月1日

注2:10年の総務省「国勢調査」についてもほぼ同じ。なお、同調査については、小嶌『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社、14年)314ページ以下を参照。

注3: 13年第1四半期以降、「契約社員」と「嘱託」に分けたデータが公表されている。

注4:小嶌「総務省の就業構造基本調査からわかること ~ 続・非正規の実像伝えない『平均値』」(13年7月29日)

注5:このような事情もあって、雇用者比率(就業者に占める雇用者の割合)は、06年以降、8年連続で女性が男性を上回っている。詳しくは、小嶌『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社、近刊)71ページを参照。

注6: 時系列の公表データは10歳区分となっているが、統計表(たとえば、「第1表 就業状態、年齢階級別15歳以上人口」・12年平均)から5歳区分のデータも入手可能なものとなっている。なお、11年第1四半期以降、年平均だけでなく、四半期データについても5歳区分のデータが公表されている。

 

小嶌 典明氏(こじま・のりあき)1952年、大阪市生まれ。75年に神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第1次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与などとして雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作は『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社、近刊)など。

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