政府が新たな成長戦略として掲げた「日本再興戦略・改訂版2014」がこのほど閣議決定され、今後は実行に向けた制度改革が行われる。そのうち、雇用分野については労使やメディアの関心が、もっぱら労働時間でなく仕事の成果で評価される働き方(成果型労働制度)の導入を巡る議論に向けられた。しかし、成果型の導入は成長戦略に盛り込まれた雇用制度改革の一つに過ぎず、多くの労働者にとってはもっと身近な改革案が目白押しだ=表。代表例を挙げ、狙いと課題を探った。(報道局)
【働き過ぎ防止と柔軟な勤務制度】
違法な長時間労働を抑止するため、「ブラック企業撲滅プラン」を年内にまとめる。労働基準監督署の監督指導を徹底し、監督官の人員を強化する。厚労省によると、雇用者1人あたりの監督官数(2010年)は日本が0.53人で欧州の0.64~1.89人よりかなり少ないが、人員増は見込み薄だ。産業競争力会議などでは民間側から「ハローワークの業務は民間に任せ、その分を労基署に回すべきだ」との意見もあったが、機構改革が必要なことなどから難航は必至。
労使が対立する労政審で
どこまで雇用改革が実現できるか
一方、企業は夜のダラダラ残業を止めて社員の定時退社を心掛け、その分は始業前に回す「朝型」勤務体系を採用する制度を促進する。朝の方が効率的に働けるため、欧州主要国も「朝型」が主流になっている。伊藤忠商事など一部大企業で試みが始まっており、効果を上げている。また、年次有給休暇の取得促進、勤務時間のインターバルなどについては労働政策審議会で検討中だが、今後、審議のペースを速める。
また、フレックスタイム制も見直す。会社で働かなければならないコアタイム以外、始業・退社時刻などを自分で決められる制度だが、現行では清算期間(労働すべき時間を定める期間で、1カ月が一般的)が短く、複数月をまたぐような場合は清算が困難といった欠陥もある。使い勝手を改善し、育児中の女性などが幅広く活用できるよう、労政審で検討する。
育児や介護など、家庭の事情で毎日の出勤が困難な場合、「少なくとも週に1回は在宅で働ける」テレワークの普及も図る。職種や企業規模を問わず、希望すれば誰でも活用できるようにノウハウ、設備、社内制度の整備が必要。就労時間と就労場所の柔軟化をどう図れるかが普及のカギになる。
【裁量労働制の見直し】
「成果型」に近い働き方として裁量労働制がある。実際の労働時間とは別に、残業も含む「みなし労働時間」に基づいて賃金を払うもの。現行制度でも認められているが、職種などが限定されることから、採用企業は少数にとどまっており、企画業務型で0.3%、専門業務型で1.2%とごくわずか。職種も新商品開発者、新聞雑誌などの取材記者、コピーライター、大学教授、公認会計士、弁護士など、狭い領域に限定されている。
しかし、労働政策研究・研修機構が13年に実施した裁量労働制で働いている約4000人に対するアンケート調査では、33%が「満足」、38%が「やや満足」と答えており、7割以上がこの働き方を支持していることになる。
このため、労政審で「成果型」の導入と合わせ、現行裁量制の欠陥を分析し、対象範囲の拡大、手続きの改善などについて見直すことになった。厚労省は労組の反対が強い「成果型」の導入には腰が引けており、裁量制の拡大によって“帳尻”を合わせようとする姿勢が垣間見える。
【「多様な正社員」の普及】
正社員は通常、転勤、残業、異動による複数職種などのフルタイム・オールラウンド型だが、勤務地、職種、労働時間など、一部の要件を制限した限定型(ジョブ型)正社員の導入を促進する。正社員と非正規社員の二極化がさまざまな格差を生み、社会問題になっているため、両者の中間的な位置にある限定型正社員の層を厚くすることで、格差解消を狙う。
現在は、限定部分が労使間で必ずしも明確化されていないため、政府は7月中に労働条件の明示などの「雇用管理上の留意点」を作成、公表する。また、職種の内容を含む労働契約法上の解釈を年内に明確にして、周知徹底する方針だ。
【透明、客観的な労働紛争解決システム】
日本には労働紛争、とりわけ解雇に関する法的規定はなく、裁判所の判断に基づく「判例法理」が判断基準になっている。判例法理では正社員の解雇要件は厳格に制限されているものの、中小企業では解雇はほぼ野放し、大企業でも「希望退職」など実質的な解雇が行われており、実態は不透明だ。また、紛争決着時の「解決金」の規定もないことから、諸外国の例を参考に金銭解決を含む明確な解雇ルールを定め、雇用の流動化を促す狙いがある。
しかし、連合などの労組は「正社員の解雇を容易にするだけ」と反発しており、来年から本格検討の予定だが、決着まで難航しそうだ。
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