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2014年6月19日

<リポート>ニッセイ基礎研究所 生活研究部 松浦民恵さん ④・終

これまでの女性活用の振り返りと今後の課題

 連載の第4回(最終回)では、これまで振り返ってきた、企業における女性活用の変遷をまとめ、女性の活躍に向けた今後の課題について、筆者の考えを述べたいと思います。

1・女性活用の変遷の振り返り

is1406.jpg 本連載では、1986年以降を「第一の時代」(1986年~1999年)、「第二の時代」(2000年代)、「第三の時代」(2010年代)に分けて、企業における女性活用の変遷を振り返ってきました(図表1)。

 第一の時代においては、女性活用に関して、均等法や育児休業法で求められる範囲で最低限対応しておこうという企業が少なくありませんでした。第二の時代に入ってからは、少子化への危機感が高まる中で、特に両立支援に対して前向きな対応をとる企業が増加してきました。第三の時代は、労働力人口の減少に加え、国内外での企業間競争の激化が一層進む中、人事戦略、さらには経営戦略の観点から、女性活用が論じられるようになってきました。

 第一の時代における女性活用は、それまでの男女別の雇用管理に風穴を開けるという意味では一定の成果がありましたが、男性と同等の雇用管理が適用された「女性総合職」をはじめとする女性社員が十分に定着しなかったという面で、企業の女性活用は「挫折」を経験したといえます。しかしながら、この「挫折」を通じて得られた教訓が生かされるまでには、一定のタイムラグがあります。

 第二の時代には少子化への危機感が高まり、両立支援制度の充実や職場環境の整備が図られました。こうした取り組みを熱心に進めた企業においては、育児休業制度、短時間勤務制度といった両立支援制度の利用者が増加し女性社員の定着が進みましたが、制度利用が女性社員に偏り、利用期間が長期化するなかで、女性社員のキャリア形成の遅れが指摘されるようになってきました。

 このような中、第三の時代に入った頃から、制度利用者に対する企業の期待や、制度利用によるキャリアへの影響(長期の制度利用はキャリア形成の遅れをもたらすなど)を認識したうえで制度を利用するよう、女性社員に対する研修などが行われるようになってきます。また、この時代には、女性社員の育成に重要な役割を果たす管理職(上司)に対して、女性社員とのコミュニケーションの改善、女性社員の効果的な育成に向けた意識改革などを促す動きが活発化してきました。さらに、メンター制度や女性社員同士のネットワーク形成支援など、女性社員の管理職登用、さらには管理職としての活躍を、具体的に後押しするような支援が重点的に展開されるようになってきました。

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 しかしながら、役職に占める女性の割合は、徐々に増加してきているものの、2012年時点でも部長、課長、係長が各4.9%、7.9%、14.4%と、依然として低い水準にとどまっています(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。この現状が、女性活用は「古くて新しい課題」と揶揄されるゆえんでもあるのですが、これまでの振り返りを踏まえると、企業における女性活用は、第一の時代であれば法対応、第二の時代であれば少子化というように、それぞれの時代背景を色濃く反映した結果、課題発見と改善の連続的な取り組みがなされてきませんでした。そういう意味で、女性活用は必ずしも「古くからの課題」ではなく、特に両立支援と均等推進の両輪の効果的な連動は、第三の時代における「新しい課題」であり、そのための取り組みもまだ始まったばかりのようにみえます。

2・女性活用の今後の課題

 一方、いずれの時代においても一貫して、女性活用を阻害してきた本質的な課題も残されています。その課題とは、多くの男性にみられる、企業における拘束度の高い働き方と、家庭における育児などの役割の小ささです。前述のとおり、第二の時代以降、両立支援制度の利用環境整備という観点からも、長時間労働をはじめとする既存の働き方を改革する取り組みが、多くの企業で進められてきました。

 ただ、就業者に占める週労働時間60時間以上の割合をみると、30代男性、40代男性が2000年には各24.0%、20.5%、2012年には各18.2%、17.5%と、減少してはいるものの、まだ十分な成果が上がっているとはいえません(内閣府『男女共同参画白書 平成25年版』、総務省「労働力調査(基本集計)」)。結果として家庭における男女の役割分担も大きくは変わっておらず、末子が就学前の共働き男女で1日の家事関連時間を比較すると、男性が1時間7分であるのに対して、女性は5時間56分にのぼっています(内閣府『男女共同参画白書 平成25年版』、総務省2011年「社会生活基本調査」)。

 両立支援制度の利用が女性社員に偏り、制度利用が長期化する背景には、このような男女役割分業の現状があります。言い換えると、こういう前提条件が変わらないままに、企業が女性社員に対して活躍を期待することは、公私トータルでみれば男性社員以上の努力を求めていることになります。男性社員との比較において、公私トータルで必要となる努力の差が大きいほど、育児等と企業での活躍の双方に挑戦する女性社員は、より大きな困難に直面することになるでしょう。

 さらにいうと、こうした現状において、女性社員が双方を完全に両立するのは実際難しいことから、結局双方の何かを少しずつ諦めざるを得ず、何を諦めるかについて日々葛藤する事態になると想像されます。こうした大きな困難に疲弊する女性社員の働き方、生き方に対して、他の多くの女性からの共感が得られるとは考えにくいことから、困難が大きいままである限り、後に続きたいという女性社員はむしろ減少していくでしょう。

 育児などと企業での活躍の双方に挑戦する女性の困難を軽減するためには、現状のような男女役割分業の前提条件を少しずつでも変えていくことが必要不可欠です。そのためには、企業が、両立支援制度の利用促進を含めて、男性も育児参加できる環境を整備することが引き続き重要です。

 最近では、女性社員を対象とする研修などに夫を招き、女性の仕事内容について理解を得るとともに、家庭での役割分担について話し合う機会を設ける企業も出てきました。

 こうした取り組みは、家庭単位で夫婦が話し合い、既存の男女役割分業にとらわれず、納得的な分担に変更していくうえで有益な機会になると考えられます。なお、育児などと企業での活躍の双方に挑戦する女性社員の困難を和らげ、努力を支援するという意味でも、男性社員を含めた職場全体の働き方の効率化や柔軟化も、引き続き粘り強く推進していく必要があるでしょう。

 一方、男女役割分業という前提条件は長年にわたって形成されてきたものだけに、変革にも相当の年月を要する可能性が高いと考えられます。したがって、当面、企業の女性活用においては、女性社員に対して、公私トータルでみると男性社員を上回る努力を引き出すために、特別な支援を行う必要があるでしょう。具体的には、①育児などに直面する前の初期キャリアにおいて、仕事への愛着やキャリア志向の形成を重点的に促す、②育児などの時期に仕事への愛着やキャリア志向を失わないよう、両立支援制度利用の前後などに長期的なキャリア形成に対する啓発・支援を行う、といった取り組みがあげられます。このような取り組みを通じて、育児などと企業での活躍の双方に挑戦する女性社員を増やしていくことが、企業での働き方のみならず、女性が家にいることを前提として構築されている社会システムをも、少しずつ変えていく原動力になることでしょう。 (おわり)


松浦 民恵氏(まつうら・たみえ) 1966年、大阪府生まれ。89年に神戸大学法学部卒業、日本生命保険入社。95年にニッセイ基礎研究所。2008年から東京大学社会科学研究所特任研究員、10年に学習院大学大学院博士後期課程単位取得退学、同年から同研究所主任研究員。11年に博士(経営学)。『営業職の人材マネジメント』(中央経済社)など著書、論文、講演など多数。

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