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2014年6月16日

<リポート>ニッセイ基礎研究所 生活研究部 松浦民恵さん ③

女性活用の「第三の時代」~両立支援と均等推進の両輪連動

 第一の時代(1986年~1999年)においては、女性活用に関して、均等法や育児休業法で求められる範囲で最低限対応しておこうという企業が少なくありませんでした。その後、第二の時代(2000年代)に入ってからは、少子化への危機感が高まるなかで、特に両立支援に対して前向きな対応をとる企業が増加してきました。しかしながら、こうした両立支援の動きのなかで、新たな課題が指摘されることになります。

 第3回は、女性活用の「第三の時代」(2010年代)についてみていきましょう。

1・両立支援~女性社員の定着だけでなく、活躍も目指す段階に

is1406.jpg 第二の時代において、両立支援のために制度の充実や職場環境の整備が進められた企業においては、育児休業制度や短時間勤務制度などの両立支援制度の利用者が増加し、女性社員の定着が進んできました。一方で、こうした企業においては、新たな課題として、女性社員ばかりが制度を利用し、さらに利用期間が長期化することによるキャリア形成の遅れが指摘されるようになってきました。つまり、せっかく女性社員の定着が進んだにもかかわらず、十分な活躍ができていないという、均等推進の面での課題が改めて浮かび上がってきたわけです。

 このような中、第三の時代においては、「充実の制度を“どう使うか”」という観点から社員にワークとライフのマネジメントを求める事例(2010年・ベネッセコーポレーション)のように、充実した制度の最大限の利用を前提とするのではなく、制度利用に当たって、キャリア形成への影響も含めた制度利用のメリット・デメリットを考慮することが、社員に求められるようになってきました(図表1)。また、このような考えのもと、「キャリア継続・両立支援の両視点」(2010年・リコー)、「会社と従業員のWin-Winの関係」(2011年・東芝)、「働きがいと働きやすさの向上」(2011年・アメリカンホーム保険)、「『いきいき推進活動』や『ワーク・ライフ・バランス研修』」(2011年・大成建設)のように、「両立支援」と「均等推進」の両輪をうまく連動させることによって、効果的な女性活用を実現しようとする事例が目立ってきました。

図表1:企業における女性活用の事例(第三の時代:2010年代)

 なお、第二の時代の「両立支援」については、少子化を背景に前進した経緯から、仕事と「育児」の両立に焦点を当てた事例が多かったのですが、第三の時代に入ると「育児」のみならず、「介護」(2013年・明治安田生命保険、2013年・大丸松阪屋百貨店)さらには「地域・ボランティア活動、生涯学習」(2010年・平和堂)といった、多様な事由に関する事例が掲載されていることも注目されます。

2・均等推進~経営戦略として女性の育成・登用への関心が高まる

 第二の時代は「両立支援」に比べて「均等推進」(特に女性の育成・登用)の事例紹介が少なかったのですが、第三の時代に入ると、前述のように「女性社員の定着が進んだにもかかわらず、十分な活躍ができていない」という問題が顕在化してきた中で、「女性の育成・登用」に関する事例が存在感を増してきます。たとえば、「管理職を巻き込んだ研修」(2010年・大日本印刷)として、女性社員と直属上司がペアで参加する研修が実施されています。こうした研修は女性社員とその管理職とのコミュニケーションを改善し、女性社員の効果的な育成に寄与すると考えられます。「管理職としてのマインドセットとスキル強化」(2013年・リコー)は、女性の管理職登用を具体的に支援する取り組みとして係長相当に実施されており、女性管理職に対してもメンタリングプログラムやネットワーク形成支援が実施されています。

 また、少子化による労働力人口の減少のみならず、国内外での企業間競争の激化が一層進むなか、第三の時代においては、本連載の冒頭でも紹介したとおり、女性の活躍推進が政府の成長戦略として位置づけられました(注) 。企業においても、多様な人材を効果的に活用するダイバーシティ・マネジメントが人事戦略、ひいては経営戦略として位置付けられ、そのなかで女性活用の重要性が、より明確に認識されてきました。

 事例をみても、「女性リーダーを『ダイバーシティ推進者』に任命し付加価値の高い職務」(2013年・第一生命)、「ダイバーシティ開発部とプロジェクト『DIVI』(筆者註:ダイバーシティ推進のための社内プロジェクト)が連携」(2013年・ソニー)など、ダイバーシティ推進のなかで女性活用が強化されている様子がうかがえます。

 このように、第三の時代に入り、女性活用は両立支援だけでも、均等推進だけでもうまく進まないという認識が広がってきました。また、第三の時代における女性活用の取り組みは、法対応を目的としたものでも、少子化対策を目的としたものでもなく、女性の活躍を目的としたものであるという点で、これまでの取り組みと大きく異なります。そういう意味で、第三の時代の女性活用については、これまでと比べて、より実効的な取り組みとなることが期待されます。ただし、女性の活躍を実現させるためには、継続的かつ長期的の取り組みが必要です。また、女性の活躍に向けては、まだまだ障壁も残されています。

 次回は、これまでの女性活用の変遷を整理したうえで、女性活用の今後の課題について考えてみたいと思います。 (つづく)

 

注1:2013年6月に、政府の成長戦略「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月14日)が公表され、「特に、これまで活かしきれていなかった我が国最大の潜在力である『女性の力』を最大限発揮できるようにすることは、少子高齢化で労働力人口の減少が懸念される中で、新たな成長分野を支えていく人材を確保していくためにも不可欠である」と、「女性の活躍推進」の重要性が強調されました。

 

松浦 民恵氏(まつうら・たみえ) 1966年、大阪府生まれ。89年に神戸大学法学部卒業、日本生命保険入社。95年にニッセイ基礎研究所。2008年から東京大学社会科学研究所特任研究員、10年に学習院大学大学院博士後期課程単位取得退学、同年から同研究所主任研究員。11年に博士(経営学)。『営業職の人材マネジメント』(中央経済社)など著書、論文、講演など多数。

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