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2014年6月 2日

厚労省、「良質事業者の育成」と「悪質事業者の排除」にメリハリ

「製造請負優良適正事業者」一覧、厚労省HPに掲載始める

 労働者派遣法改正案が、会期末に向けた終盤国会でどのように取り扱われるか注目されている。帰着のケースは、①土壇場で成立、②衆院で審議入りして継続審議、③審議入りしないまま継続審議(再提出)――のいずれかになる見込みだが、取材と経験則に照らすと成立は秋の臨時国会に持ち越される公算が高い。一方で、法改正を必要としない行政施策は予算と計画に沿って着実に進んでいる。人材サービス会社の活用関連事業では、政府と厚生労働省は本年度、「良質な民間人材ビジネス会社の育成」と同時に、従来にも増した「悪質事業者の徹底した排除」という、一見真逆な両面政策を展開している。“アメとムチ”にも映る施策の背景と本質を探る。(報道局長・大野博司)

製造請負認定事業者の掲載の意義と波及効果

is140602.JPG 厚労省は5月27日、ホームページ上に2010年度から本格実施している「製造請負優良適正事業者」の企業名一覧を掲載した。厚労省が委託事業として進めてきた「認定事業者」だ。この事業の最大の狙いは、「請負事業の適正化と雇用管理の改善推進」にある。事業者の意識、活用する発注企業、そして請負会社で働く人たちにとって「(製造請負事業者の)選択の指標」として参考にしてもらうもので、今回の「企業の一覧掲載」はこの気運を後押しするものになろう。「派遣と請負」は、今や業界が情報のアンテナを高くして注視している関係性にあるだけに、インパクトが強い。

 前身の準備期間から含めると、07年度から8年間にわたり継続している事業だ。厚労省の委託事業として一定の認知度はあったものの、その厳格な審査基準や仕組みに比べると、“ものづくりの品質保証”とも言えるせっかくの価値が、これまで世間(発注企業と労働者)の評価と必ずしも見合っていない部分も見受けられた。今回の一覧掲載は「良質な事業者育成」のみならず、これまで以上に発注企業と労働者の参考となり、ひいては請負事業者の意識向上に直結するだろう。

 人気製品(商品)の切り替わりの早さや、グローバル社会の荒波。机上の理想論や聞こえのいいスローガンが簡単に伝播(でんぱ)するほど生やさしい環境下に置かれた業態や事業構造にないことは承知している。ゆえに、「認定制度」の試みと意義は光る。目指すべき方向に羅針盤を置き、それを官が後押しする動きは不可欠であり、一覧掲載に関しては少額予算で、効果的かつ波及効果のある対応と言える。

【厚生労働省ホームページより】
認定事業者一覧

製造請負優良適正事業者認定制度の概要

 製造請負認定制度は3年ごとに更新され、公表された分かりやすい区分け表の通り、直近の13年度までに40社(うち12社が更新事業者)が認定されている。従来、厚労省(各労働局)は主として事業者の指導監督機関であり、もっぱら指摘や処分を担っていた。しかし、現行の労働者派遣法(通称「平成24年改正法」)の国会質疑(12年3月)の際にも聞かれたように、「罰を与えるだけでなく、優良な、優秀な事業者には賞を与えるという考え方も必要」との意見が与野党を問わず挙がった。さらに、ここにきて「雇用・労働の社会インフラとしての業界」と位置づけようとするならば、「罰と処分」の一方で「賞と推奨」を取り入れる考え方は理にかなった提言だ。そして、一連の国会質疑が議事録だけにとどまらず、施策として実行されたことは着実な一歩だ。

 今秋には、派遣事業の優良事業者認定制度が動き出す計画だ。こちらは、今春、厚労省に新設された「民間人材サービス推進室」が所管窓口となって準備を進めている。新たな仕組みづくりと運用という難しさだけでなく、派遣事業者の事業規模やエリア、得意分野といった幅広さなどから、スタート時にはさまざまな課題も浮上すると予想されるが、改善や修繕を施しながら早い段階で世間の評価を得られる制度に成長してもらいたい。その際、厚労省も今回のように「認定事業者のホームページ掲載」などを含むプラスαの“後押し”を実施してほしい。

悪質事業者の排除徹底と留意点

 派遣事業に限らず、人材ビジネス業界はいまだに理不尽な酷評を受けることがある。08年のリーマン・ショック直後に比べれば、限度を超えたヒステリックなバッシングこそ影をひそめているものの、偏見が完全に払しょくされているわけではない。現政権が人材ビジネス業界を「雇用のマッチングの最大化」や「職能教育の充実」に活用していくことを日本再興戦略(13年6月)に盛り込み、本年度の施策は具体的にその方針に舵を切っている。しかし、そうした方向でありながらも、この動きをいぶかる政党や労働組合、市民は少なくない。

 その根強い不信感の原因はどこにあるのか。やはり、過去に大きな社会問題を巻き起こした複数の事業者の記憶が消えず、さらに現在も小規模ながら悪質事業者が存在しているからだろう。実際には、かつて厳しい社会の非難を受けた人材会社でも、経営層や業務の仕組み、組織体質をガラリと変えて、新たな一歩を踏み出しているところもある。

 しかし、コンプライアンスの徹底、派遣社員らのキャリアアップ、若年層や障害者の雇用促進事業など、社会的に有意義な事業についてアイデアを振り絞って展開し続けても、全体的な信頼回復の速度は緩やかだ。現在も、厚労省の許可が必要な一般派遣事業から届け出で認められる特定派遣に「看板を付け替え、実態は一般派遣事業のまま」といった故意の脱法行為が後を絶たない。そうした事業者に対する労働局の処分が新聞やテレビで報じられるたびに、業界全体のイメージ回復にブレーキがかかる。また、技術者派遣を中心にした正社員や無期雇用を前提とした特定派遣会社にとっては、「特定派遣」というくくりで同一視されるのは迷惑千万な話だろう。

 それに加えて、業界にとっては“風評被害”の類の報道もある。例えば、「〇〇に違法派遣」といった見出しの報道内容をよく読むと、中には摘発された人物や会社が派遣事業の許可を持たない「ニセ派遣会社」であるケースも多く散見される。

 この問題は、今回の派遣法改正案の事実上のたたき台となった、厚労省の「今後の派遣制度の在り方に関する研究会」(鎌田耕一座長)でも取り上げられ、「許可を有する派遣事業者でないにも関わらず『〇〇現場に違法派遣』、『派遣法違反』という言い方になる現状は、誤解を与えかねず検討が必要ではないか」と改善を求める識者もいた。

 ただ、いずれにせよ、人材ビジネス業界にはまだ自己改革の余地が大きく、行政は良質な事業者育成と同時に、厳格な指導監督による「両面の同時進行」で進めてくるだろう。無数の会社が存在する「業界の全事業者」を、社会的責任や対外的な交渉力を有する「人材サービスの各協会・団体」が完全に網羅、掌握(しょうあく)できているわけではない。このため、「おかしな事業者がいる」という状況を瞬間的に断ち切る“魔法”はなく、各協会に加盟する意識の高い会員企業や、あるいは志を持った上場企業などが軸となって地道にけん引していくほかない。

 ここ数年の業界関係の取材の感触では、相変わらず、法と政省令に則った行政の指導監督を求める声が多い。この問題は根深いので別の機会に譲るとして、まじめに人材サービス事業に向き合っている会社やその従業員は、「悪質事業者の排除や退場」を業界外の人よりも強く望んでいる。直近の数字では、一般派遣約1万9600事業所(うち、約1万5000事業所が実績あり)、特定派遣5万3000事業所(同2万5600事業所)。この事業所数が上程中の改正法が成立、施行されて3~5年後にどのように変化しているか、併せて、業界そして各協会がどのように進化しているかが注目される。


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