難病法案(新法)と改正児童福祉法案を審議していた衆院厚生労働委員会は18日、政府案をほぼ原案のまま全会一致で可決した。本会議での採決を経て、5月中旬にも参院で審議、可決成立の見通しだ。1972年の「難病対策要綱」に基づく制度創設以来、40年余に及んだ難病対策・小児慢性特定疾病治療研究事業は、ようやく法律に裏付けられた制度へ大きく前進した。(経済ジャーナリスト 本間俊典)
厚労委では予想通り、医療費助成問題が最大のテーマとなった。政府案では(1)原因不明(2)治療法が未確立(3)希少な疾病(4)長期療法が必要――の4要件を満たす疾病を「難病」と認定。これらに(5)患者数が人口の0.1%程度以下(6)客観的な診断基準の存在――の2要件を加えた基準に合う疾病を医療費助成の対象にする。
2月に開かれた患者団体への説明会
これに対して、民主など野党会派は基本的には政府案を支持しつつも、これらの要件のうち、「人口の0.1%程度以下」について見直すよう、厚生労働省に繰り返し迫った。この要件では、患者数が「12万人以上」の疾病が助成からはずれることになり、現在は助成対象になっている潰瘍性大腸炎やパーキンソン病の患者が引っ掛かる可能性が出てくるためだ。また、200万人と推定される線維筋痛症などは、現行でも新制度でも対象要件には合致しない。政府側は「柔軟な対応」を強調したが、野党側は納得しなかった。
また、現行の医療費助成は財源の制約で56疾病に限定されており、それ以外の難病患者は助成対象にならないという著しい不公平が生じている。新制度ではこれを見直し、対象を300疾病ほどに大幅拡大する。そのため、予算を500億円ほど増やすと同時に、新たな患者の自己負担限度額を設け、56疾病とそれ以外の新規認定疾病のバランスを取った。助成を現在の「厚く狭く」から「薄く広く」にしたわけだが、その結果、56疾病の患者の自己負担額が多少増えることになり、これも野党の攻撃材料になった。
見方を変えれば、現行の助成対象者はそれ以外の多くの患者が“締め出される”ことで制度の恩恵を受けてきたわけであり、負担増への反発は新制度下で新規認定患者と同じレベルの自己負担を嫌う既得権益の擁護に等しい。これでは、助成の財源となる消費増税を容認した社会一般の理解を得るのはむずかしいであろう。
低所得層への一層の配慮という点で政府案に見直しの余地はあるものの、「患者の生活が苦しくなる」というだけの野党の主張には、財源問題を無視する気楽ささえ漂う。これを「厚労委挙げての財政当局へのアピール」ととらえることもできなくはないが、財政再建の厚い壁を破るのは至難の業だ。
患者の既得権擁護に終始した野党
難病対策にとって「希少性」の要件は最も基本的なものだ。数が少ない希少難病患者の置かれた社会的な立場は非常に弱く、制度の支援がなければ治療研究も療養生活も困難な患者が多いためであり、この点については患者代表も加わっている厚生科学審議会の難病対策委員会で委員間の意見は一致している。
従って、「病名や患者数で線引きするな」という野党の主張は正論ではあるが、結果的に声の大きい“多数派”の患者に有利になり、難病法の基本理念を理解したうえでの主張とは言い難い。制度の網から漏れる患者が出て来るという現実を指摘するだけで、建設的な提案をした委員はいなかった。
結局、可決に際しては「疾病数の上限を設けることなく……患者数だけでなく、指定難病に指定された経緯なども考慮しつつ、慎重に検討すること」とする付帯決議が付いた。これを言い換えると、「対象を300疾病に限定せず、患者数の多い既認定疾病をはずしてはいけない」という意味になり、既得権擁護の色彩が濃い内容となっている。付帯決議付きで全会一致で可決したということは、多数派患者に対する与野党の“言い訳”という側面もありそうだ。
今回の審議では、筋委縮性側索硬化症(ALS)など既認定患者団体の要望を受けた質疑が多く、それ以上に重要な新制度の骨格に関するやり取りは少なかった。現行の助成患者の治療データ収集が非常にズサンなこと、「難病指定医」の認定や難病相談・支援センターの活動のバラつきなど、新制度の実効性のカギとなるこれらの点について、井坂信彦氏(結い)らが追及したものの、議論の深まりに欠けた。参院では参院本来の機能を発揮し、新制度の枠組みに対する質疑が中心となることを期待したい。
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