今年の春闘は、多くの企業が長らく見送ってきたベースアップ(ベア)が実現するなど、久々に活況を呈した。アベノミクス効果による昨年来の景気回復の結果と言えるが、今後もこの流れが中小企業などに波及するかどうか、そして、賃上げ環境が持続するかどうかが焦点となっている。(報道局)
連合がまとめた第2回「回答集計」(3月24日時点)によると、経営側の回答を引き出したのは1187労組にのぼり、前年より235労組、組合員数約44万人の増加となった。平均回答額(加重平均)は6634円で、昨年より1254円(0.42ポイント)上回った。
円安効果で業績を急回復させた自動車業界は2700円、電機業界も2000円のベアを回答する企業が多かった。また、今年は中小企業の回答が増え、従業員300人未満の中小労組で回答を引き出したのは657労組で、昨年より158労組増加。平均回答額も4824円となり、昨年より669円(0.31ポイント)上回った。
さらに、パートタイマーなど非正規社員の賃金アップを回答した企業は、連合傘下のUAゼンセンを中心に27労組にのぼり、時給が20~40円アップした(14日時点の第1回回答)。
今年の春闘の特徴は、賃上げ回答企業の増加以上に、賃上げの中身が注目された点。自動車、電機、鉄鋼など大手メーカーがほぼ6年ぶりのベアに踏み切ったからだ。ベアは基本給に含まれるため、月々の給与アップと同時に、残業代から社会保険料、退職金に至るまで、人件費全体の計算の基になる。このため、多くの企業が先行きを見通せないデフレ不況下ではベアに慎重な姿勢を取り続け、業績の向上分はボーナスなどの一時金で対応してきた。
労働側も「雇用の維持」を最優先に掲げる経営側の主張に対抗できず、ベアの要求自体を自粛する労組が続出し、ベアは死語に近くなっていた。しかし、労働者側にとっては、給与の安定した底上げがないと、先を見越した消費活動に踏み切りにくい。そうした消費者意識に加えて、円安による輸入物価の上昇や、人手不足による賃金アップなどを反映して、昨年央あたりから物価が上昇に転じたうえ、今年4月からの消費税率のアップを控えるなど、消費マインドを冷やしかねない材料が相次いだ。
このため、政府は「デフレ脱却に向けた好循環の維持」を目的に、昨年から政労使協議の場を設定し、安倍首相自ら経団連などの企業側にベアを含む賃上げを強力に要請してきたいきさつがある。業績が比較的堅調な大手サービス業では昨年から賃上げに踏み切る企業が出ていたが、グローバル競争にさらされているメーカーの腰は重く、今回、ようやく安倍政権の“恩義”に応えた形だ。
安定的上昇には生産性の向上が不可欠
しかし、賃金の決定は、基本的には労使間の交渉で決めるのが大原則であることから、今回の政府の介入には「官製春闘」という批判も多い。また、デフレ不況の長期化で雇用の維持を優先して、賃金交渉にまで力を発揮できなかった労組の実情を浮き彫りにする結果ともなった。
実際、正社員を中心に組織している労組が雇用維持を優先させたことから、非正規社員の増加が顕著になった側面も否定できない。パート、契約、アルバイト、派遣などの非正規比率は2月時点で38%に達しており、いずれ4割の大台に達するのは時間の問題とみられる。
今回の賃上げ続出により、「デフレ→企業業績悪化→賃金ダウン」の悪循環はひとまず収まるとみられるが、今後は夏場にかけて中小企業や非正規社員の賃上げにどの程度波及するかが焦点になる。また、今後の世界経済の動向次第では再び業績ダウンに陥るメーカーが現れ、総人件費の抑制に向けたリストラが横行する懸念もないわけではない。
今回のベア復活を一時的現象に終わらせず、賃金が安定的に上昇するには、それに見合う生産性の向上が必須条件。働く人々のスキルアップはもちろん、非成長産業から新たな成長産業へ労働力をスムーズに移動させる「産業政策」に至るまで、総合的な効率化の実現がカギを握ることになりそうだ。