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2014年3月25日

労働者派遣法改正案、国会提出までの記録―⑤

「労働政策審議会・労働力需給制度部会」の経過(1)

抜本改正へ労使激論の末、越年審議で“帰着” 

is140325.jpg 「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書を受ける形で、田村憲久厚労相が諮問機関である労働政策審議会に派遣法見直しについて議論を要請した。労政審は職業安定分科会の下部組織にあたる労働力需給制度部会に審議を委ね、同部会で公益委員(有識者)、労働者側委員、使用者側委員の3者構成で議論を展開。当初、政府と厚労省は年内建議を念頭に進行していたが、労使の主張が対立し、越年して2014年1月29日の建議となった。部会長は「在り方研」の座長を務めた鎌田耕一東洋大教授。改正案要綱の諮問と答申を含めると、開催期間は13年8月30日~2014年2月27日。

田村厚労相「分かりやすい派遣法」の検討求める 2013年8月30日

 労働者派遣法の「再改正」に向けて初会合を開いた。労働者側、使用者側の双方に「オブザーバー」を2人ずつ、公益委員に「専門委員」2人の計6人を追加する協議体制を導入。同部会は公労使の委員各3人と、定員に追加された6人を合わせた計15人による「議論の場」となった。使用者側のオブザーバーには、日本人材派遣協会と日本生産技能労務協会の代表者が、労働者側には産業別の労働組合の代表が参画した。

 この日は事務局の厚労省が、「在り方研究会」の報告書について概要を説明。続いて、この取り扱いと、今後の議論の進め方について意見が出され、労働者側は「これからの論議のたたき台、または前提とせずに一から派遣制度のあり方について議論すべき。人材派遣業界の要望に沿った内容だ」と、大幅な規制緩和と位置付け強くけん制した。

 これに対し、使用者側は「派遣業界の要望に沿っているとは必ずしも思っていない。一般労働者派遣事業の中心である有期雇用派遣の位置づけが必要以上にネガティブなとらえ方になっている。派遣事業が果たしてきた実績や役割、意義が十分に反映されておらず、見直す部分がある」と主張した。

審議項目の順番めぐり難航 9月17日

 年内建議(答申)をメドとしている中、審議する項目の順番をめぐって難航。予定時間を約20分オーバーした末に、事務局(厚労省)が提示した「主な論点(案)」の項目建てを一部変更し、かつ(案)を残したままで審議を進める方向で軟着陸した。

 この日は、今後の審議の参考とするため、事務局が(1)労働者派遣の現状について、(2)派遣労働者の実態に関するアンケート調査、(3)派遣労働者(ウェブ)実態調査、(4)2012年派遣労働者実態調査の概況、(5)指導監督件数――を提出して概要を説明。これに対し、労働者側委員は調査方法や各調査にそれぞれ「バイアス」がかかっていることなどを繰り返し指摘し、審議会の流れが使用者側ペースで進むことをけん制した。

「特定派遣事業者を許可制に」 労使が概ね一致 9月27日

 具体的な項目で本格的な議論に入った。「届け出制」となっている特定労働者派遣事業のあり方については、労使双方が一般派遣事業と同様に「許可制」が望ましいとの認識で一致。「在り方研究会」の報告書(8月)が打ち出した、「常用」から「無期」を含む新たな厳格な仕組みの導入を前提にした「当面、届け出制維持」とは異なる見解を示した。ただ、許可の資産要件や移行期間などについてさまざまな意見が挙がった。

 この日は、(1)登録型派遣・製造業務派遣のあり方について、(2)特定労働者派遣事業の在り方について、の2点に絞って議論。

 (1)については、労使の見解や視点が相容れない状態。(2)については、労働者側委員が「そもそも常時雇用という定義自体の変更が必要であり、常用雇用だから届け出制でよいとはいえない。許可制にすべきだ」と主張し、使用者側委員からも「悪質業者排除のためにも許可制が適当」との意見が出た。ほとんどの論点で「真っ向対立」の場面が多い同部会では珍しい“合意”場面となった。

政令26業務、常用代替防止で白熱議論 10月10日

 労働者派遣制度の派遣期間制限について、政令26業務と常用代替防止のあり方を巡り、白熱した議論が展開。26業務が派遣期間の制限を受けない代わりに、非常にわかりにくい制度になっていること。常用代替の防止のために派遣期間の制限を設けていることが、労働現場の多様化にマッチしなくなった、との指摘に基づいたテーマ。

 使用者側からは、「実態は派遣労働者に不自然な働き方を強いるものとなっており、派遣労働者の就労やキャリアアップの阻害要因になっている。もっとわかりやすい制度にすべきだ」との意見が出た。

 労働者側委員は、「雇用は無期の直接雇用が原則であり、派遣という有期の間接雇用に対して常用代替防止で規制するのは基本だ」と強く主張した。

 また、政府の規制改革会議が10月4日に発表した「労働者派遣制度に関する意見書」では、日雇い派遣の原則禁止の見直しなどを盛り込んだが、労働者側は「議論には影響を受けないと考えるべきではないか」と主張したのに対して、使用者側から「政府としての提言を“影響を受けない”としたままで本当に良いのか」と反論があり、事務局の厚生労働省が「それも含めて議論してほしい」と部会に扱いを委ねる一幕もあった。  (つづく)
 

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