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2014年3月 3日

派遣・請負最大労組、JSGUの緒方会長に聞く(上)

「派遣法改正 労働者保護へ大きな前進」

 労働者派遣制度の見直しについて、労働政策審議会が期間制限に絡む業務区分の撤廃など、抜本改正となる報告書を建議したことで、大幅な変更が予想される。3月中旬に改正法案が国会に提出される運びだが、派遣・請負労働者で組織する連合傘下のUAゼンセン人材サービスゼネラルユニオン(JSGU)の緒方裕司会長は、「派遣労働者の真の保護を初めて正面に据えた点で大きな前進」と評価している。(聞き手・本間俊典=経済ジャーナリスト)

―― 労政審の建議の内容を全体的にどう評価しますか。

is140303.jpg緒方 派遣労働が「労働力の需給調整機能」という社会的役割をきちんと果たしてきたことを認めたうえで、初めて労働者保護を打ち出した点は大きな前進であり、その点は評価したいと思います。

 業務区分に基づく派遣期間の制限は、正社員の常用代替の防止を主眼にしたものであって、派遣労働者の保護のためではありません。あくまで、派遣を臨時的・一時的就労として例外扱いし、無期雇用に誘導しようとした制度です。基本的に派遣を否定的にとらえ、規制を掛けてきたもので、それが今日まで続いています。

 法制化された1980年代半ばならともかく、それから30年近くが経ち、今や100万人前後の派遣労働者が就労している時代です。派遣も多様な就労形態のひとつとして認めたうえで、問題点を改善していくという考えに立たないと、矛盾は広がるばかりです。しかし、今回、本質的な意味で初めて事業規制から労働者保護に舵を切り替えたことは、派遣が多様な就労形態のひとつとして認められる第一歩を踏み出した、という感じですね。

―― 派遣期間を一律に3年上限にした点(3年ルール)についてはプラスマイナスの両面があると思いますが。

緒方 そうですね。期間制限を業務区分ではなく、有期か無期かに分けて、無期雇用なら期間制限なしとする考えは大きな前進です。現行の業務区分では、26業務には期間制限がないのに、それ以外の業務では派遣で働きたい意思を持っていて、目の前にまだ仕事があっても、派遣契約が終了すれば就労もそこで終わりという、派遣労働者にとっては実に不合理な制度です。

 その点、有期雇用の3年という期間が長いか短いかは、個々の派遣労働者によって受け止め方が違うとは思いますが、とりあえず3年という節目を契機にし、今後の働き方を考えてみる、次の派遣先に行くことでキャリアアップを図るなど、自分を見直すということでは3年ルールに一定の役割はあるかもしれません。

 ただ、派遣先の仕事に習熟して人間関係も良好で、ずっとここで就労したいと思っている人たちにとっては、26業務に従事している人たちも含め、新制度はマイナスになります。また、地方などで派遣先が限られている人にとっても、3年ルールが適用されると次の就業先がなくなることも考えられます。常用代替の防止という原則を残している以上、そのような事象が発生しますが、その辺は柔軟な運用を望みたいです。

―― 「多様な就労形態」の実現にはまだ十分ではない?

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JSGUの組織図(クリックすると拡大)

緒方 もちろん、十分とは言えません。派遣という働き方に対する社会の偏見が根強いのは、正社員という働き方以外は正規でないという、「多様な就労形態」を根っ子の部分で認めていないことにその一因があると思います。派遣労働者にもいろいろな人がいて、正社員希望者がいる一方、組織に縛られるのを嫌う人や自分のスキルを武器に仕事をしたい人、あるいはフルタイム勤務ができずに派遣を選んでいる人など、実にさまざまです。

 派遣という働き方を含め、「多様な就労形態」を選び、正社員を希望しない人も現実として多い中、それを例外扱いして規制を掛け、正社員に誘導しようとする制度は、多様な働き方を選んで生活している人々を、大きく変化する時代の流れの波間に漂う浮草と同じようにしてしまうのではないかと思います。 (つづく)

 

緒方 裕司氏(おがた・ゆうじ)1950年熊本県水俣市出身。74年中央大学卒、長崎屋入社。同社労組副委員長を経て2007年4月、UIゼンセン同盟(現UAゼンセン)人材サービスゼネラルユニオン入局。09年11月、同会長就任。
 

注:JSGU 派遣・請負労働者を中心にした最大労組で2004年5月結成。組織構成員は技術系、製造系、事務系などの約1万6680人(14年1月末現在)。派遣・請負という就労形態から企業単位でなく、企業を横断して組織運営しているのが特徴。連合のUAゼンセンの傘下にある。

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