今年の春闘が例年にない“活況”を呈している。昨年からの景気回復で業績が上向いた企業が増えたため、労組側が攻勢を強めているためだ。特に、デフレ下でこれまで“自粛”してきたベースアップ要求を掲げる労組が増えており、3月中旬の一斉回答日に向けて経営側と活発な攻防を展開中だ。(報道局)
連合は20日の第3回中央闘争委員会で、春闘の進め方について(1)足元の物価は徐々に上昇し、労働者の生活に影響を与えている(2)すべての働く者の月例賃金にこだわり、1%以上の引き上げを強く要求(3)3月12日を含む「第1先行組合回答ゾーン」(10~14日)に可能な限りの回答を引き出す――などを確認した。
今年の春闘は、昨年来の政労使交渉で労使とも賃上げの必要性では一致している。政府は、アベノミクスでテコ入れした景気回復を持続させるには、消費活動を活発にする賃金上昇が必要であり、4月からの消費税率アップを乗り切るためにも賃上げを、として経団連などに強く要請してきた。経団連はこれまで「雇用の維持が最優先」と人件費には厳しい姿勢を取り続けてきたが、今回、6年ぶりにベアを容認する姿勢に転じた。その意味で、今回は賃上げ一色の春闘になっている。
問題は、賃上げの中身をボーナスなどの一時金にするか、ベアを含む月例賃金にするかであり、労使の攻防はそこが主要な焦点になっている。経営側は人件費の固定化につながるベアに難色を示している企業が多いのに対して、労組側は一時金では生活が安定せず、ベアが必要との立場だ。
業界全体の業績が向上している自動車やNTTなどの主要企業で、労組は「ベア1%」に基づいた要求を出している。連合も6日に東京・日比谷で開いた中央総決起集会で、神津里季生事務局長が「あくまでも月例賃金にこだわる闘争を」とゲキを飛ばした=写真。しかし、電機業界のように、企業間の業績にバラつきのある業界では足並みがそろわず、かつての“護送船団式”の統一要求はできない状況で、賃上げの水準や方法は個別交渉の様相を強めている。
「非正規の賃上げこそ優先を」の声も
バブル崩壊以降、企業側はほぼ一貫して社員の賃金を抑制してきた。厚生労働省がこのほど発表した2013年「毎月勤労統計調査」によると、昨年のサラリーマンの平均現金給与総額は31万4054円と前年比で横ばいだったが、残業代などを除いた所定内給与は24万1250(同0.6%減)で、06年から実に8年連続のマイナス。多くの企業が月例賃金のアップを抑制してきた事実がはっきり出ている。
また、人件費コストの高い正社員を減らし、パートタイマーや契約社員などの非正規社員を増やし続けた結果、雇用者に占める非正規の比率も年々増えた。統計の「読み方」に注意が必要ではあるものの、昨年は36.6%の過去最高を記録した。企業の非正規の増加は、当初こそ人件費抑制に効果を上げてきたものの、社会的な格差拡大や雇用の不安定という新たな問題を生み出していることから、「正社員の給与より、非正規社員の賃金アップの方を優先させるべきだ」との声も少なくない。
非正規の賃金は景気動向に敏感に反応することから、派遣やアルバイトなどの時給は、人手不足を背景に昨年からジワジワ上昇が続いている。一方で、今年の春闘では、「正社員の給与水準が上がっても、非正規への波及は小さいのでは」との見方もあり、労働関連の法改正を含む中長期視点の制度改革も必要となっている。