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2014年2月 5日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

労政審建議、派遣法のどこがどう変わるのか(中)

派遣先(ユーザー)からみた法改正

同一部署における同一のスタッフ受け入れは一律3年

is1402.bmp 現在は、政令26業務について派遣受け入れ期間に制限はないものの、26業務以外の自由化業務については、派遣先は1年(派遣先の過半数組合などへの通知と意見聴取を経た場合には3年)を超えて派遣サービスの提供を受けることができない。1999年の法改正により派遣が解禁された自由化業務の場合、派遣スタッフがその間に交替したとしても、3か月超の空白期間(クーリング期間)を途中に挟まない限り、派遣サービスの提供を「継続して」受けることに変わりはないため、同様に期間制限違反となる。期間制限の現状は、およそこのように要約できる。

is140205_3.png これに対して、改正法の予定する個人単位の期間制限は、派遣スタッフの業務の種類を問わない。つまり、現行の26業務も一律にその対象となる。先にみた3つの例外(=右)に該当しない限り、同一の組織単位(同一部署)で、3年を超えて同じ派遣スタッフを受け入れることは、業務の種類を問わず許されない。このことにまず注意する必要がある。

 また、これに加えて、部会報告は「派遣先が、同一の組織単位において3年の上限を超えて継続して同一の派遣労働者を受け入れた場合は、労働契約申込みみなし制度の適用の対象とすることが適当である」ともする。

 労働契約申し込みみなし制度が現実に適用されるのは15年10月からとはいえ、部会報告が「平成24年改正法の規定については、施行状況についての情報の蓄積を図りつつ、見直しについて引き続き当審議会において検討を行うことが適当である」とし、施行前にその見直しを行うことが現状では予定されていないことにも留意しなければならない。知らなかったでは、到底すまされない。このことを派遣の活用部署である末端の現場にまで周知徹底する必要があろう。

過半数組合などへの意見聴取が3年ごとに必要

 改正法で導入を予定しているのは、このように個人単位の期間制限だけではない。派遣先単位の期間制限がそれであり、部会報告は前述の例外を除き、「派遣先は・・・・同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないものとすることが適当である」とする。

 たしかに、部会報告は、これに続いて「派遣先が、事業所における派遣労働者の受入開始から3年を経過するときまでに、当該事業所における過半数労働組合(過半数労働組合がない場合には民主的な手続により選出された過半数代表者。以下「過半数組合等」)から意見を聴取した場合には、さらに3年間派遣労働者を受け入れることができるものとすることが適当である。その後さらに3年が経過したとき以降も同様とすることが適当である」とはする。しかし、意見聴取といっても、単に意見を聴けばよいというものではない。

 部会報告は「意見聴取にあたり、派遣先は、当該事業所における派遣労働者の受入開始時からの派遣労働者数と無期雇用労働者数の推移に関する資料等、意見聴取の参考となる資料を過半数組合等に提供するものとすることを指針に規定することが適当である」とするとともに、「適正な意見聴取のための手続」に関連して、次のように述べる。 

a 過半数代表者は、管理監督者以外の者とし、投票、挙手等の民主的な方法による手続により選出された者とすることが適当である。
b 過半数組合等が、常用代替の観点から問題があり、現在の状況を是正すべきとの意見を表明した場合は、派遣先は、当該意見への対応を検討し、一定期間内に過半数組合等に対し対応方針等を説明するものとすることが適当である。
c 派遣先は、意見聴取及び対応方針等の説明の内容についての記録を一定期間保存するとともに、派遣先の事業所において周知するものとすることが適当である。
d 派遣先による過半数代表者への不利益取扱いを禁止することが適当である。


 その内容は現行の省令や告示(注:現行省令と告示の関連規定)をベースとしたものといえるが、改正法のもとでは「同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れる」場合に意見聴取が必要となるため、少し規模の大きな事業所であれば、どこかの部署(組織単位)で常に派遣スタッフを受け入れている可能性があることから、3年ごとに過半数組合などに対して意見聴取を行うことが事実上必要になる。

 つまり、事業所を単位として、派遣スタッフを継続して受け入れている場合には、仮に部署ごとの派遣受け入れ期間が、現行では過半数組合などへの意見聴取を要しない1年以内にとどまる場合でも、意見聴取が必要になる。同じ意見聴取とはいっても、その内容は従来と大きく異なる。こうした点にも留意が必要といえよう。

 さらに、意見聴取にあたっては、上述したように過半数組合などに「当該事業所における派遣労働者の受入開始時からの派遣労働者数と無期雇用労働者数の推移に関する資料等、意見聴取の参考となる資料」を提供することが必要になるとすれば、派遣の受け入れを現場(部署)任せにするといったことも今後は許されなくなる。少なくとも、部署ごとの受け入れ状況を常日頃から人事部(人事課)が事業所ごとに確認する。改正法施行後は、こうした対応も派遣先には求められることになろう。

 なお、部会報告は「派遣先が、過半数組合等の意見を聴取せずに同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れた場合は、労働契約申込みみなし制度の適用の対象とすることが適当である」ともする。労政審の使用者代表委員からは意見聴取の手続き違反として、労働契約申し込みみなし制度を適用することは「ペナルティーとして重すぎるとの意見があった」ともいうが、けだし当然であろう。

 

【メリット】自由化業務に対する現行の派遣受け入れ期間の制限はなくなる。過半数組合などへの意見聴取という手続きを踏めば、製造業務を含め、3年を超えて継続して派遣を受け入れることが可能になる。
【デメリット】現行の26業務も、期間制限の対象となる。業務の種類を問わず、同一部署における同一の派遣スタッフの受け入れは等しく3年が上限となり、規模の大きな事業所では、3年ごとに過半数組合などに対する意見聴取が必要になる。

 

(次回は「派遣会社(ベンダー)からみた法改正」、2月7日掲載予定)

 

小嶌 典明氏(こじま・のりあき)大阪大学大学院法学研究科教授。1952年大阪府生まれ。75年神戸大学法学部卒業。富山大を経て93年大阪大法学部助教授、95年同教授、99年から現職。専攻は労働法。規制改革委員会の参与などを歴任。主な著書に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社、近刊)など多数。

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