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2014年2月 3日

<特別寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

労政審建議、派遣法のどこがどう変わるのか(上)

 1月29日、労働政策審議会の労働力需給制度部会が「労働者派遣制度の抜本的見直しについて」(以下「部会報告」)を了承。その後、労政審として厚生労働相に建議を行い、労働者派遣法改正の方向性が確定した。部会報告の最大の焦点は、期間制限の仕組みが従来と大きく変わる点にある。大阪大学大学院法学研究科の小嶌典明教授は、改正項目の中からこの期間制限に着目し、派遣スタッフ、派遣先、派遣会社の3者にとって、それぞれどのような意味を持つのか、アドバンスニュースに寄稿した。

派遣スタッフからみた法改正

同一部署での派遣就業は3年まで

is1402.bmp 政令26業務については、期間制限を設けない。2003年の法改正以降、派遣法はこのような仕組みを採用してきた。これにより、26業務に従事する派遣スタッフは就業期間を制限されることなく、同じ派遣先(同一部署)で働くことが可能となったが、今回の法改正により、本人が希望する場合でも、こうした働き方は認められなくなる。

 派遣スタッフにとって、法改正で新たに設けられる、「3年を上限とする個人単位の期間制限」が意味するところは、ここにある。

 以下の①から③に該当する人・業務の派遣については例外が認められるものの、こうした場合を除き、「派遣先は・・・・同一の組織単位において3年を超えて継続して同一の派遣労働者を受け入れてはならないものとすることが適当」であり、「組織単位は、就業先を替わることによる派遣労働者のキャリアアップの契機を確保する観点から、業務のまとまりがあり、かつ、その長が業務の配分及び労務管理上の指揮監督権限を有する単位として派遣契約上明確にしたものとすることが適当である」と、部会報告はいう。
 

①無期雇用の派遣労働者
②60歳以上の高齢者
③現行制度において期間制限の対象から除外されている日数限定業務、有期プロジェクト業務、育児休業の代替要員等の業務

 

 たしかに、派遣会社に無期雇用されている派遣スタッフについては、3年を超えて就業を継続することも可能であるとはいえ、派遣先が事実上固定されているか、派遣スタッフのスキルレベルが高く、多くの派遣先からニーズがある場合でなければ、派遣会社も無期雇用にはなかなか踏み切れない。それゆえ、法改正の結果、派遣会社による派遣スタッフの無期雇用が増えると単純に考えることには、大きな無理があろう。

26業務についてまわった業務内容の制約を撤廃

 従来、26業務については、ことのほか制約が大きかった。2010年2月の「専門26業務派遣適正化プラン」以降、さらに制約が厳格になり、「電話1本取っても自由化業務」といった、明らかに行き過ぎた行政指導すら派遣の現場ではみられた。

 その影響は、今日まで尾を引いており、旧5号業務(OA機器操作)を典型に26業務の実稼働者数は激減したが、このような働き方を続ければ、臨機応変に対応する能力が失われ、同僚との関係もギクシャクしたものとなり、正社員への道はかえって遠ざかってしまう。そうした発想は、当時の民主党政権にはなかったらしい。

 部会報告は、派遣スタッフのキャリアアップ措置についても言及しているが、改正法施行後は、派遣が禁止されている建設などの業務を除き、これまで26業務に従事していたスタッフも、仕事の内容に制約を受けることなく、派遣就業ができるようになる。キャリア形成という観点からも、このメリットはきわめて大きい。

 パートタイマーや有期契約労働者については、通常の労働者との処遇の違いを合理的に説明できるよう、多くの企業が職務内容などを通常の労働者と明確に区別する方向へ向かっている。コンプライアンス(法令順守)を徹底的にいわれる世の中では、そうせざるを得ない側面もある。

 しかし、派遣スタッフについては、こうした方向に行って欲しくない。業務内容に制約を受けずに、どんな仕事でもできる。それがスタッフにとっても、キャリアアップへの道を確実に拓くことになる。その意味で、逆説的ではあるが、派遣先に雇用されている労働者との均衡待遇を強調し過ぎると、派遣先に業務の限定を促すことになり、かえって問題といえよう。

【メリット】仕事の内容については、働き方の自由度が増す。キャリア形成という点でも法改正には意味がある。
【デメリット】どんな業務でも、同一部署では3年までしか派遣就業ができなくなる。同じ組織単位における派遣就業(26業務)の継続を望むスタッフには酷な法改正。

 

(次回は「派遣先(ユーザー)からみた法改正」、2月5日掲載予定)

 

小嶌 典明氏(こじま・のりあき)大阪大学大学院法学研究科教授。1952年大阪府生まれ。75年神戸大学法学部卒業。富山大を経て93年大阪大法学部助教授、95年同教授、99年から現職。専攻は労働法。規制改革委員会の参与などを歴任。主な著書に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社、近刊)など多数。

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