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2014年1月27日

「優良派遣事業者認定制度」の準備進む

厚労省の委託事業で派遣業界も

 人材派遣業界が「優良派遣事業者認定制度」の構築を急いでいる。派遣会社の中から優良企業を客観的な基準で認定し、派遣社員や派遣先企業の「評価・判断」の材料にしてもらうと同時に、業界全体の質の向上に結び付けようという試みだ。(報道局)

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作成:人材サービス産業協議会

 この制度の仕組みづくりは、2012年10月の改正労働者派遣法(現行法)の施行に伴い、国会の付帯決議の中で派遣元に対して「派遣労働者の雇用の安定などに必要な職業能力開発に取り組む恒久的な仕組み」を検討するよう求めたことが発端。厚生労働省の委託事業として、日本人材派遣協会(家中隆会長)など5業界団体で構成する「人材サービス産業協議会」(JHR、中村恒一理事長)が、昨年7月以降、有識者らを交えた協議会やワーキンググループを開催するなど精力的に取り組んでいる。

 JHRが23日に発表した“中間報告”(進ちょく状況の説明)によると、優良事業者の定義は「法令順守だけでなく、派遣スタッフのキャリア形成支援、派遣スタッフの保護・処遇向上、より良い労働環境の確保などに取り組む事業者」としている。

 具体的な認定基準は(1)事業体に関する基準…事業の健全性、社内監査体制、情報管理・セキュリティー(2)派遣社員の適性就労とフォローアップに関する基準…募集・採用、安定就労とフォローアップ、雇用管理(3)派遣スタッフのキャリア形成と処遇改善の取り組みに関する基準(4)派遣先へのサービス提供に関する基準…ニーズへの対応、就業環境の整備、トラブル予防・是正措置――の4項目を満たしているかどうか。
 
 とりわけ、(3)のキャリア形成については、コンサルティングに積極的に関与しているかどうか、仕事に対する適性を判別する仕組みがあるかどうか、働きぶりやスキルについて評価とフィードバックを適宜実施しているかどうか、教育訓練の機会提供や支援を実施しているかどうか、正社員希望者にはそれを把握し、実現の機会を提供しているかどうかなど、詳細なチェックを行う考えだ。

 これらの項目をチェックし、認定審査する第三者機関を設置し、この機関が認定した派遣会社に対して、業界団体などで構成する「認定委員会」(仮称)で最終的に承認の可否を決定する。JHRでは、第三者機関、認定委員会とも今年の上半期に発足させ、下半期から派遣会社の認定申請の受け付けを開始する予定だ。

派遣法「再改正」とリンク、試される本気度

 労働者派遣法の再改正法案が今通常国会に提出され、15年4月からの施行が日程に上っているが、労働政策審議会・労働力需給制度部会(鎌田耕一部会長)で審議中の建議案の中に、「労働者派遣事業の許可・更新要件に、派遣労働者へのキャリア形成支援制度を有することを追加することが適当」として、それを厚労省が定める「指針」で規定することを求めている。派遣元による派遣労働者のキャリア形成支援を義務化するわけで、業界としても「指針」に沿った体制整備が必要という背景がある。

 同時に、2008年に起きたリーマン・ショックのあおりで派遣労働者が雇い止めに遭い、その年暮れのいわゆる「年越し派遣村」騒動などで、業界の社会的イメージは急落した感があったが、優良事業者認定制度の導入といった「見える化」によってイメージ回復の一助にしたいという狙いもある。一方で、派遣会社には零細派遣元も多く、全国で約8万事業所に上ると推定されるが、派遣協に加盟している派遣元は約600社に過ぎず、業界全体のイメージの底上げには時間が掛かりそうだ。半面、加盟会社が全国区の、または地域のリーディングカンパニーとして業界をけん引していることも事実で、厚労省も今後の動きを注視している。

 23日に行われた派遣協の賀詞交歓会では、参加企業の担当者から「派遣スタッフに専門的なキャリア支援を施しても、これまで派遣先との料金交渉では切り札になりにくかった。これで他社との差別化が図れる」とする歓迎論がある一方で、「登録型の派遣スタッフに研修を施しても、他社からの派遣に切り替えられたり、派遣先に直接雇用されたりすれば、投資が回収できない」、「景気回復で派遣先の需要が急増しており、スタッフ確保を優先せざるを得ない」などの懸念が交錯し、業界内でも認定制度の意義とメリットに対する浸透がより必要な模様だ。

 優良事業者認定制度については、JHRの構成会員のひとつ製造請負・派遣の業界団体である日本生産技能労務協会(清水竜一会長)が、10年度から同じく厚労省の委託事業で「製造請負」の優良事業者認定制度を先行実施しており、現在、35社が認定を受けている(下記の関連記事参照)。事務系派遣が主体になるとみられる現在準備中の認定制度の取り組みは、法改正の動きと連動して派遣業界の本気度を試される格好になりそうだ。

 人材サービス産業協議会のホームページ(http://www.j-hr.or.jp/

 

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