労働者派遣法の再改正に向けて議論を重ねてきた労働政策審議会・労働力需給制度部会(鎌田耕一部会長)報告書案が提示された。見直しの目的と方向性を大きく3点にまとめた「基本的考え方」、それを受けた形で改正項目の要点を記した「具体的措置について」の2部構成となっている。月内の取りまとめに注目が集まる中、「基本的考え方」に込められた重みと、「具体的措置」における項目の追加や削除を含めた「最終調整」の着眼点について考える。 (報道局長・大野博司)
に17日、先の公益委員案をベースにした厚労省の一般と特定の労働者派遣事業の区分撤廃によるすべての派遣事業の「許可制移行」を除き、労使の合意がほとんど見られなかった労政審。意見の隔たりの大きさが越年審議を招いたが、いよいよ最終局面を迎えている。延々と対立したままでは帰着しないため、厚労省を挟んで労使が互譲の精神で交渉し、取りまとめにこぎ着けた報告書案と言える。「交渉事」はどちらか一方の主張だけで集約できないのは当然であり、終盤は双方が「譲る」または「譲る代わりに取る」という緊張感のある“駆け引き”を水面下で続けてきた模様だ。
17日に提示された報告書案で注目されるのは、公益委員案にはなかった「基本的考え方」だ。これは、改正法自体に記述される訳ではないものの、目の前の改正論議でも、将来的な改正の場面においても「記録」として重要となるからだ。
3点の記述を要約すると、「派遣労働者、派遣元・派遣先企業に分かりやすい制度」、「労働者派遣事業が果たしている重要な役割の評価と、派遣労働者の雇用の安定と処遇の改善」、「悪質な事業者の徹底排除と、優良な事業者の育成」――となる。今回の改正だけで完全に「分かりやすい制度」になるかどうかは未知数だが、例えば「政令26業務の廃止」は、この部分での指導・監督における“裁量行政”の余地を取り除くことになる。
また、派遣事業をネガティブにとらえた視点を打ち消し、社会的に果たしている「正当な評価」を明記し、そのうえで派遣労働者のキャリアアップを含む待遇の向上に取り組む必要性を強調している。
そして、業界自らが率先して取り組む課題として、悪質業者の徹底排除を求めており、改正項目案でみると派遣事業の許可制への一本化がその一策となる。行政も徹底的な取り締まりの姿勢を示す一方で、従来型の「罰」だけでなく、優良な事業者を後押しする「賞」の部分の施策を検討していく意思が感じられる。
再改正に向けた「前文」として、これらの記述を報告書案に盛り込んだ意義は大きい。
労働者側が懸念する事前面接
次に、報告書案における「具体的措置について」(改正項目)の一部修正の可能性を考えてみたい。17日に報告書として建議に至らなかったのは、双方の譲歩で収れんされてきた案ではあるものの、まだ労働者側の異論が相次いだためだ。もちろん、使用者側も別の観点から納得できない部分を持っている。しかし、「最終調整」を念頭に置いて推察すると、落としどころは労働者側が17日の会合で発言した中にあるとみられる。
労働者側は、「このままの内容で了解するとは、今日段階でも残念ながら申し上げることができない」との姿勢を示したため、帰着の方策として報告書案の部分修正はあり得るとみるのが自然だろう。では、それはどの部分になるのか。
出席した労働者側の全委員とオブザーバー委員からさまざまな角度から発言があったが、特に印象深いのは従来までの指摘とは別に取り上げた「特定目的行為」に関する点だ。この項目での報告書案の文言を平たく直すと、「(派遣元に)無期雇用される派遣労働者の事前面接の容認」である。
労働者側は、「特定目的行為については解禁するということが書かれているが、これについては反対」と表明。「派遣先が事前の面接などによって特定目的行為(事前面接)を行うということは、派遣先による採用行為ということにほかならない」と理由を述べ、「有期であろうが無期であろうが、事前面接の解禁は派遣事業の果たす機能を放棄するに等しい。削除いただきたい」と厳しく迫った。
一方で、労働者側は公労使の議論のテーブルである労政審の位置付けを強調したうえで、「いたずらに審議を引き延ばさない」ことも明言している。特定目的行為の取り扱いを含めたいくつかの部分的な追加や削除が、月末に向けた「最終調整」の焦点となりそうだ。
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