越年審議となった労働者派遣法の再改正をめぐる労働政策審議会・労働力需給制度部会。一昨年10月から全16回にわたって事実上の“たたき台”となる有識者会議「労働者派遣制度の今後の在り方に関する研究会」を経て、昨年8月末から公労使のテーブルで審議を進めてきたが、閣議決定で示された年内建議(答申)には至らず、結論は今年に持ち越された。昨年12月25日の約8分間の公開議論の中から、労働者側の主張を基に帰着に向けた焦点を探る。(報道局長・大野博司)
派遣制度の全体像を俯瞰(ふかん)すると、制度の必要性や意義、あるいは問題点、課題は多面かつ重層的だ。派遣という形態で働く人たちも、派遣元事業者(人材派遣会社)の間でも、活用する側の派遣先企業でも、携わる関係者の意見はそれぞれ枠組みの中でさえ違いがある。関係団体や組織の「統一見解」は存在するものの、年齢、性別、地域なども複合的に絡む「働き方」に関することなので違いが生じるのは当然とも言える。しかし、「多様な働き方」の選択肢の一つとして、派遣制度が一定の役割を担っていることは間違いない。
2010年2月の厚生労働省局長通達による「専門26業務派遣適正化プラン」を筆頭に、前政権時代で学んだことは、法改正ではない「無謀な解釈」で唐突に締め付けてみても、正社員は増えなかったという事実だ。むしろ、より待遇の低い処遇に置き換えられたり、職を失ったりする人さえ出た。理想と期待とは裏腹に、総務省や厚労省のここ数年の各種統計を精査すると現実が見えてくる。
では、その制度をいかに「働く人」にスポットを当てながら、実態に即して構築するか。ここの議論に真剣に向き合うからこそ、労使の主張は白熱する。「それぞれの立場の保身」とか、「体裁を保つため」という揶揄(やゆ)も一部にあるが、これまで公式、非公式に一連の取材を重ねてきた実感として、労使双方ともそうした一言でくくれるほど「軽い」主張でないことは確かだ。
決着に不可欠な「互譲の精神」
改正の骨格は昨年12月4日に示された公益委員案の通りだ。公益委員は年内建議を目指して同月25日の午前10時過ぎから非公開の公使会議と公労会議をそれぞれ実施し、調整を図ったがまとめに至らず、直後に開いた約8分の公開会合で年内の議論を閉じた。しかし、その中の労働者側の3点の主張が帰着点のカギになるとみられる。
労働者側は①有期の派遣における派遣先での期間制限で、過半数代表者などの意見聴取のみでチェックを行うことの実効性に疑問、②期間制限のない無期雇用派遣について、派遣会社における無期雇用の意味をさらに検討が必要、③均等待遇を主張してきたが「均衡の促進」にとどまっている――の3点を挙げた。
主張に大きな違いがある労使の攻防を前に、行司役の公益委員は「虚心坦懐、互譲の精神」を呼び掛ける場面がある。今回の労政審もそのひとつだ。最終的には、労働者側の主張を厚労省と公益委員がどこまで組み入れ、どのような「文言」で担保、補完するかに掛かっている。年内建議を断念しただけに、3点の「完全無視」の可能性は薄いとみられ、それらを取り込んだ書きぶりが注目される。
ただ、「政治法」とも呼ばれる派遣法において、国政与党は現在、労働者側委員が主要な席を占める連合が推す民主党ではない。09年9月の政権交代で民主党政権は、同年中にわずか9回(うち4回が12月)の労政審で「登録型派遣の原則禁止」、「製造業派遣の原則禁止」、「日雇い派遣の原則禁止」などを含んだ極端な労働規制と事業規制を、厚労相の「諮問→答申」という格好で導き出した。
今回の再改正の内容について、労働者側にすれば「あまりに強引」と映るようだが、4年前は使用者側が「あまりに無謀」と怒りを抱いていた。さまざまな理由で派遣という働き方を選択している人たちにとって、このテーブルでの代弁者は誰なのか、未だ明確になっているとは言い難い感もある。ただ、派遣労働者をはじめ、今回の主人公であるはずの「派遣制度を活用する人たち」を複眼的に考慮すれば、再改正論議の原点である「分かりやすい派遣法」への整理を忘れるべきではないだろう。
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